「栞ちゃん、おじゃましまーす」
「あ、名雪さんこんばんわー」
”お泊まりセット”持参の名雪さん、今夜はウイークエンドのお泊まり会。
明日はお休み、だから今日はずーっと夜更かしして、夜通しおしゃべりしちゃお。
お風呂のあとはお気に入りのパジャマやネグリジェ着て、
さあ、女のこだけの楽しい”パジャマ・パーティ”のはじまり、はじまり。
【Kaori】ってドアプレートの向こう側、お姉ちゃんの部屋からは、楽しそうな笑い声。
「栞、早くお風呂入っちゃいなさーい。名雪がバスフィズ、持ってきてくれたわよ」
「はーいっ」
わたしもパジャマに着替えたら、
お姉ちゃん、名雪さん、２人のパーティにおじゃましちゃっていいかなぁ？
"Lingerie lass"らんじぇりーらす
「ねぇねぇ、お姉ちゃ……わ！」
「栞、ちゃんとドアノックしてから入れっていつも言ってるでしょ」
だ、だって、ドア開けたら、びっくりするようなコト
パジャマ姿のお姉ちゃんと名雪さんが２人でしてたんですっ。
名雪のそれ、かわいいわね、とか
香里のそれ、おしゃれさんだよー、とか
――女のこ同士で、自分のお気に入り下着の、見せあいっこ。
体が弱くて入院生活の長かったわたしは、友達と『お泊まり会』なんてしたことなかったから、
こんなお泊まりのとき――たとえば、修学旅行や合宿の夜とかに、
女のこはお気に入りのブラやショーツをお泊まりセットの中に入れて、
自分のとっておき【勝負ぱんつ】を女友達と見せあいっこして、
どっちの下着がかわいいか、みんなで競いあう【ぱんつ勝負】！
……そんなことしちゃってるなんて、全然知らなかったしー。
「お、お姉ちゃんのなの？ ……その、ぱんつ」
「わたしのじゃないよー」
「そ、それってその、『勝負ぱんつ』っていうの？」
「違うわよ。だいたいこの趣味丸出し苺ぱんつが、名雪の勝負ぱんつに見える？」
「いちごさんなんだよっ♪」
た、確かにそれは、いかにも苺好きの名雪さんらしい『苺ぱんつ』なんだけど。
……だけど、わたしがはいてるような『いちごのバックプリントつき白こっとんぱんつ』じゃなくって、
フォトリアリスティックなストロベリーをいくつもあしらった、ブラとおそろいの、とってもおしゃれなデザインショーツ。
上下おそろい苺な格好の名雪さんはすごーくおしゃれさんで、フルーティーで――思わず、”食べちゃいたく”なっちゃいそう！
「名雪さん美人だからこれで『勝負』できますっ。それよりも、お姉ちゃん！ それ、黒じゃないですかっ」
「……もしかして栞、『黒の下着イコール、ぜんぶ勝負下着』とか、思ってない？」
「え、違うの？」
「違うわよ。まったくお子さまなんだから、あんたは」
「黒とかブラウンとかモカとかのモノトーン系色のインナーって、普段つけても、透けたりしなくていいんだよ」
「……で、でも、やっぱり”それ”は絶対勝負ぱんつですっ。だってレースや刺しゅうがいっぱいだし、ほらっ、おそろいブラまでっ」
「タップパンツとキャミソールもお揃いなんだよね、香里」
「よ、４点セット！ やっぱりお姉ちゃんの勝負ぱんつなんだー。勝負ぱんつー」
むぎゅー。
「栞っ、あんた大きな声でぱんつぱんつ言わないのっ！」
ほっぺたぐにぐに。
「おねえひゃん、いひゃいー」「香里容赦ないよー」
「あたしも名雪もこんなお揃いのとか、いろいろ持ってるの」
「普段はいてるのとは別に、ちょっとおしゃれさんなのをねっ」
「わ、こっちなんか総レースぱんつだったりするしっ」
「……ひとの下着あんまりジロジロ見ないの、栞」
お姉ちゃんのベッドの上にカラフルに広げられた、２人のとっておきお気に入り下着さん達。
お花畑をまとったようなおしゃれなブラ＆ショーツの上下おそろいセットとか、
女のこの大好きなリボンやレース、フリルがいっぱいついてる可憐なのとか、
すごーく可愛い甘々ピンクのとか、大人っぽいラベンダーのとか、
爽やかさんなブルーのとか、お姫さまみたいなピュアホワイトとか、
……苺とか、黒とかっ。
「お姉ちゃんも名雪さんも、おしゃれなのいろいろ持ってるー。いいなぁ」
「おかーさんがね、年頃なんだからそういう見えない所にも気遣うのよ、って。それに、可愛いの好きだし〜」
なるほど、名雪さんのあのきれいなお母さんならそれも納得、なっとく。
お姉ちゃんも、ママからそう言われたのかな――妹のわたしは、なんにも言われてないけどっ。
「いいな、いいなぁ。わたしもこういうの欲しいなー」
「そうだねー、栞ちゃんも今度、香里に選んでもらったら？」
「そうね、栞の今はいてる５枚千円こっとんぱんつを、３枚千円のにランクアップするのもいいかしら」
「そ、それだけー？」
「ワンポイントにリボンぐらいついてるわよ」「だ、だってー」
わたしだって、お姉ちゃんや名雪さんみたいに
ストラップがおしゃれに交換できるお出かけブラとか、胸元や裾がレースいっぱいのミニスリップとか、
サイドが手結びリボンで愛らしいラブラブひもぱんつとか、いろいろしてみたいですっ！
特に、祐一さんと逢うときには――だって、わたしも女のこだもんっ！
「だよねー、栞ちゃんもお年頃女のこさんだもんね、おしゃれしちゃいたいよねっ」
「はいっ」
「じゃあさ、試しにわたしのこれ、はいてみない？」
「わー、名雪さん大好きですーっ」
キレイな名雪さんのお気に入り、苺ショーツ。
これをはいてみたら、きっと苺みたいに甘酸っぱい、
フルーツみたいな女のこになれちゃうかも。
ストロベリーみたいな、女のこ。
それってきっと、誰もが好意を持つような、
とてもとてもキュートな女のこに違いない。（そう、名雪さんみたいに――ね）
じゃあ、わたしの好きな、アイスクリームみたいな――女のこ。
それは一体どんな女のこ、なんだろう？
あいすくりーむ。やっぱり、クールなイメージ。
……でも、本当はふわりと溶けるように柔らか、フレーバーやトッピングでいつもおしゃれで、
とても甘くておいしくて、だからみんな好きで――そしてもちろん、わたしもとっても大好き。
（……お姉ちゃんだ！）
アイスクリームみたいな、女のこ――お姉ちゃんみたいな、女のこ！
わたしの夢なんだよっ、いつか、そんなステキな女のこになりたいっ、って。
「ね、お姉ちゃん、頼みが」
「何よ、栞」
「お姉ちゃんのその黒いのも、してみたいのっ」
「だめ」「即答ー？！」
「第一、お子さまの栞に似合うわけないでしょ」
「うぁんっ」
「……香里、ちょっと言いすぎ」
まあ絶対こうなるだろうなーって、
最初からわかってはいたんだけど。
……でも、こうまでハッキリと
『栞に似合うはずないでしょ』『あんたはお子さまなんだから』ってお姉ちゃんに断言されると、
『そんなことないですっ』って――わたし、かえってムキになっちゃう性格なんだからっ。
「に、似合うかどうかははいてみないと判らないもんっ」
「ふーん、そお？ 試すだけ無駄だと思うけど」
「お姉ちゃんじゃダメですっ、やっぱりこーゆー”勝負ぱんつ”は、彼氏さんに見てもらわなきゃ！」
「わ、わ、祐一に？！」
『勝負ぱんつ』ってのは、彼氏さんとそーゆーことになってもいいよーにはいたり、
そーなるように彼氏さん仕向けるようカケヒキするための、女のこアイテムだもの。
……その、”そういう時”には、
お子さまお子さまな白こっとんぱんつより、こっちの大人な総レースせくしー黒ぱんつの方が、
祐一さんだって絶対いいって、素敵だって、言ってくれるはずですっ。
「……栞」「ひ、ひゃい？」
「それは、つまり。――あたしの下着を？ 相沢くんに？ 見せる、ってコト？ ふーん」
わ、わっ、お姉ちゃん笑ってるけど目が笑ってないー！
こういうときのお姉ちゃん、とってもとっても危険ですっ。
「栞に黒ぱんつは似合ってたかどうか、あとで相沢くん床に正座させて小一時間ほど問い詰めてみないと」
「え、えうっ。しませんしません、冗談ですっ」
「まったく、何考えてるのよ。――あんたはお子さまなんだから、お子さまこっとんぱんつで、十分なの」
「うう、そんなこと言うひと嫌いですー」
もうっ、わたしのことお子さまお子さまってバカにするけどっ、
（そりゃあ、お姉ちゃんはわたしよりずっとずーっと大人さんだけどっ）
確かにお姉ちゃんなら、この大人な黒い下着だって『似合ってる』って言わせちゃう自信、あるんだろうけど、
――お姉ちゃんとわたし、たった１つしか、違わないんだよっ。
だけど、まだ１０代の女のこにとってその１歳の差ってやっぱりすごーく大きいし、それに
（じゃあ、もう１年したら、わたしもお姉ちゃんや名雪さんみたいな素敵なおねーさんになれる？）
――って考えたら、やっぱり無理っぽい……かも。
しょうがないのかなぁ。わたし、やっぱりまだお子さまなのかなぁ。
「名雪さーん、お姉ちゃんがいじめるー。くすんくすん」
「いじめてないわよっ」
「まあまあ香里、栞ちゃんだって、そーゆーおしゃれしちゃいたい年頃なんだし、ね？」
「そ、そうですっ」
「……しょうがないわね。じゃあ、今度栞と買い物に行ったとき、可愛い上下お揃い柄のとか選んであげるから」
「あ、それいいねー。栞ちゃん、素敵なお店あるんだよっ。すっごく可愛いの、いっぱいあるからっ♪」
嬉しそうに名雪さんが教えてくれた、
女のこでいつもにぎわうフロアの一角にある、おしゃれなインナー専門ショップ。
壁一面に圧倒されるぐらいたくさん、カラフルなブラとかショーツとかが並んでて、
トルソーにスイートなランジェリーがディスプレイされたりしている、素敵なお店。
女のこが、キュートでセクシーな”下着ムスメ”に――『らんじぇりーらす』に、なれちゃうお店。
ブラ＆ショーツとお揃いのリングガーター、いっしょに太股につけるのも、
かっこいいジーンズに合わせて、かっこいいローライズぱんつはくのも、
寄せて上げての谷間メイクブラで、グラマーさん気分味わっちゃうのも、
天使みたいなスノーホワイトスリップ、パジャマ代わりにして眠るのも、
――みんなみんな、ランジェリーラスな女のこだけの、素敵な特権。
どんなのがあるかな。
どんなのがいいかな。
どんなのが似合うかな。
どんなのが、祐一さん、好きそうかな。
「栞ちゃん、どんなのがいい？」
「えーっと……たとえば、こんなひも結びぱんつとか」
「あのね栞。アレね、結び目がほどけたりしたらぱんつ、ずるって落ちるのよ」
「えーっ？！」
「街中で栞がスカートからひもぱんつ落っことしたら、あたし他人のふりするから」
「お、お姉ちゃんの薄情者ーっ」
ゆっくりと、ゆっくりと、
お年頃な女のこさん達の、おんなじバスフィズのいい香りをさせた３人の、
パジャマな夜は更けていきます。
「香里と栞ちゃん、姉妹で服の貸し借りとかしちゃうんだ。いいなー、姉妹って」
「『貸し借り』じゃないわよ、名雪。……栞が、あたしのタンスやクローゼットから一方的に借りていくだけ」
「それはしょうがないよ、サイズが違うんだから。わたしも香里も、結構背高いほうだし」
「う、羨ましいですっ」
……あ、そのっ、
『羨ましい』というのは、女のこの平均よりちょっと高い２人の身長のことで、
今パジャマの下ブラしてない、お姉ちゃんと名雪さんの豊かな胸のことじゃ！
「大丈夫っ、胸ふにふにするとおっきくなるって言うよー」
「じゃ、じゃあ、わたしもそのうちお姉ちゃんみたいにっ」
「そんなの迷信よ。揉まれると胸が大きくなる――なんて」
「えー、お姉ちゃんの胸おっきいのはわたしがこうやっていっぱい甘えてふにふに、したからなのにー」
「きゃあ！ こ、こらっ栞っ」「いいなー、わたしも香里ふにふにしちゃえっ」
ふにふには女のこ同士のかるーいスキンシップ、仲良し姉妹さんの微笑ましい情景。
今夜はとっても楽しい、夜更かしパジャマ・パーティ。
ケータイやメールなんかよりずっとずっと話も弾んで、
お菓子やジュース片手に、夜遅くまでそんな他愛もない話で盛り上がったり。
「祐一ってばひどいんだよっ。こないだわたしが寝ぼけてベッドに潜り込んだら、寝言で『名雪、もう太るなー』って！
『わたし太ってないよっ！』って、思いっきり枕で叩いちゃった」
「わ、そんなこと女のこに言うひと、極悪人ですっ。――っていうか、名雪さんも寝ぼけないでくださいー」
「ねえ、それって『もう太るな』じゃなくて『毛布とるな』って言ったんじゃない？ 名雪が布団奪うから」「……あ」
「……くー」
「ね、寝たふりー？！」
「あははっ」
話題と笑顔はいつまでも尽きることがなくって、
学校とかじゃ味わえない楽しい時間を過ごして、
今夜はお姉ちゃんとわたし、いっしょのベッド。
「もう電気消すわね。名雪もう寝ちゃってるけど」
「……くー」
「おやすみなさい、おねーちゃんっ」
「お休み、栞」
∬ ∬ ∬ ∬
お泊まり会や修学旅行の夜に、女子部屋で繰り広げられてる（らしい）、
自分のとっておき【勝負ぱんつ】を女友達と見せあいっこして、
どっちの下着がかわいいか、みんなで競いあう【ぱんつ勝負】！
「天野さん、来月修学旅行なんですよね」
「はい。京都とか奈良とか、楽しみです」
「”清水の舞台”って、ホントに飛び降りたりできるのかな？」
「江戸時代にはあったそうです。飛び降りて助かれば願い事が叶う――と」
――それじゃあ、今度修学旅行に行く予定の２年生は、ちゃんとぱんつ、準備していくのかな。
やっぱり女のこ下着の基本、上下おそろいセットとか、おしゃれなシルクやレースの下着とか、
もしかしたらガーターとか、悩殺せくしーＴバックぱんつとか（！）、しちゃったりするのかな？
「ね、天野さんも修学旅行の時ひもぱんつとか、はいちゃったりするの？」
「はきませんっ。まったくもう、何ですかいきなり」「えうっ」
や、やっぱり、学業が本分の高校生は清楚な”白こっとんぱんつ”が基本で、
レースのすけすけとか華美な色柄とかひもぱんつとかは、めー、なのかなぁ？
でもでも、こないだ突然の強風で制服のスカートめくれたとき、天野さん結構おしゃれなぱんつ、はいてたんですけどー。
「見たんですか」
「見ちゃいました。とってもおしゃれさんだったし」
……あ、天野さん顔赤い。
「……たまにはそういう日もあります。ええ、たまには」
「たとえば、こんなぱんつの日が？」
今日はわたし、体育の授業とかなかったので、
こっそり制服の下に（名雪さんの）とっておき、苺ショーツ。
ストロベリー。
こないだ見てたテレビ番組で話題になってた、最近女のこの間でちょっと話題になってる、
種から育てて実をつけると『幸せになれる』……っていう、素敵な香りのちいさな野いちご。
――そんな苺をひとつ身につけることで、今日はちょっと特別なストロベリー・ディ、
今日はちょっと特別なわたし、甘々もぎたてストロベリー・ガール。
スカートの下に普段とはちょっと違うおしゃれ、しているだけなのに、
ちょっとそれを意識するだけで、
普段とは違う自分に、普段とは違う一日になっちゃう、その不思議さ。
「天野さんもおしゃれな下着、好き？」
「まあ、女の子ですから。刺繍とか、お洒落なのは好きです」
お姉ちゃんも、名雪さんも、それに天野さんも、このキモチ、わたしと同じなのかな。
――もしかすると、『勝負ぱんつ』とか、そんな特別ワケありな理由じゃなくっても、
そんな特別な自分を、特別な一日を、ナイショで楽しんじゃったりする女のこのための
キャンディーみたいにカラフルなインナーだったり、いっぱいのレースやリボンやフリルだったりするんじゃ、ないかな。
そう思うのは、
もしかすると、あんな『勝負ぱんつ』で”勝負”しちゃいたいような（！）好きな男のこ、
本当はお姉ちゃんにもいたりするのかも、しれないけど。
……もちろんそれは、妹としてはとても嬉しいことだし、
お姉ちゃんがいまその瞳で見つめているの、どんなひとなのかな、って
女のことして、ちょっと気になっちゃったりもするけど。
でも、ホントはそんな『誰かのものになった』、
”わたしの”お姉ちゃんの姿なんて、わたし想像したくないから。
お姉ちゃんの言うとおり、たぶん、わたしはまだまだお子さまで。
大好きなお姉ちゃん、他の人にとられたくないって、
いつまでも、わたしだけのお姉ちゃんでいてねって、
――そんな子供みたいなバカなこと、思ってる。
「どうしました」
「……わたしお子さまだから、やっぱりオトナぱんつはまだ早いのかなぁ」
「そうでも、ないですよ」
少しだけ、背伸びしてみること。
将来なりたい私を、夢見ること。
周囲にとても素敵な大人のひとがいたら、その人を慕い、憧れて、
『いつか、あんなひとになりたい』って、その人の真似をしてみること。
――それが、子供から大人になるための、
『お子さま』ガールから『オトナの』レディになるための、
ほんのちょっと、大事なことじゃないでしょうか。
「お姉ちゃんの真似することで、わたしもオトナになれるってこと？」
「はい。私は一人っ子だから、兄弟や姉妹ってよく判らないんですけど」
「……やっぱり、天野さんってオトナさんだよね〜。わたしと同い年なのに」
「そんなことないです。まだまだ子供です、子供」
高校生なんてみんな、まだまだコドモ。
でも、自分や周囲が思っているよりは、
ほんのちょっとだけオトナ、なのです。
「いいじゃないですか、オトナぱんつも。女の子がお洒落なのは、良いことですし」
「うんっ、おしゃれな下着とかのあるお店、名雪さんに教えてもらっちゃいました」
今度お休みの日にお姉ちゃんに連れて行ってもらって、
店員さんに正しいサイズ測ってもらって試着して、お姉ちゃんとおそろいデザインで可愛いの見つけちゃお、
でも２人とも同じデザイン同じ色だったら、見分けつかなくてちょっと困るかなぁ……と、とても嬉しそうに話す美坂さん。
ふたり仲良し、好きなものも、仲良し。
……そんな姉妹って、いいですね。
「素敵なの、あったらいいですね」
「――あのね。もし素敵なの見つかったら、わたし天野さんと『ぱんつ勝負』、しちゃいたいんだけど」
「えっ？」
美坂さんのそれは、ちょっと不意打ちなコトバだったけれど。
天野さんの家にわたし『お泊まり』しに行ってもいいかな、って
わたしの家に天野さん『お泊まり』しに来ちゃいませんか、って
――そういうこと、なんですね。
「……そうですね。私も素敵なの、用意しておきましょう」
「はいっ」
あの日の出来事以来、私は友達とお泊まり会、なんてすることは一度もなかったけれど、
今、目の前で微笑む元クラスメイトの美坂さんとなら、栞さんとだったら、
お泊まり会しても、２人で一緒に『ぱんつ勝負』しても、いいなって思う。
トモダチ、だから。
「ところで、天野さんはどこで下着とか買ってるの？」
「通信販売のカタログです。価格も手ごろですし、通販、好きですから。買う所誰かに見られることもないですし、買わなくてもカタログ見てるだけで楽しいですし」
「あっ、いいなー」
「興味あります？」「ありますっ」
そんなこんなで、
放課後校門のところで待ち合わせして、商店街の本屋さんに、緑リボンの制服のまま２人で寄り道。
本屋さんの大きなフロアの、ファッション雑誌や料理誌、家庭誌とかたくさん並ぶ婦人誌コーナーの一角で、
「こんなカタログ誌なんか、どうでしょう」
「あ、ちょっと”おねーさん向け”だねー」
「インナー専門で、こんなのもありますよ」
「これ、お姉ちゃんにも見せてあげたいなっ」
最新号の通販カタログ誌、何種類も買っちゃって、
百花屋さんでいっしょにアイスクリーム食べたりしながら、
『フラワープリントのおそろい上下、一緒にキャミソールもおそろいにしちゃいたいなー』とか、
『こっちのブラ、肩紐までフリルレースになってるのがすごく可愛いですね』とか、
『あ、このデニム素材なブラ、アウターっぽくお姉ちゃんが”見せブラ”したら似合うかも』とか、
『ガーターストッキングなら片足伝線しても、もう片方はまだはけるんですよね。経済的です（？）』とか、
新しくできた、２人共通の『興味ある話題』で、
話もとても弾んで――ともだちって、いいな。
「わたしがはいてるこの苺ぱんつ、祐一さんに見せたらどう思うかな？」
「もしかすると、相沢さんに『苺狩り』されちゃうかも、しれませんよ」
「あ、なるほどー。イチゴ狩りされちゃうんだ……え、ええっ？」
イチゴ狩り――いっ、イチゴ狩りー？！
（『狩り』、ですか。やっぱり家の中じゃなくて野外で……なんでしょうか。いくら愛する若い２人が激情に駆られての行為とはいえ、それはどうかと）
（『狩り』だから、逃げ回ったあげく「嫌ぁっ」って無理矢理……いやいや、わたしそんなヘンな趣味ありませんっ。でも、ちょっと興味あるかな、合意の上なら）
（女の子の服破いてしまうのは、もう論外です。プレゼントの包装紙びりびり破る欧米人のような品のない真似をしてはいけません。……確か相沢さん、親の仕事の都合で外国暮らしの経験あるんですよね。危険です要注意です）
（祐一さんにわたし、いっぱいいっぱいミルクかけられちゃったり……わ、わっ、すっごくえっちですー。もっ、もしかして『ふきふき』もー？！）
わたしと天野さん、２人の頭の中で、
もう絶対口に出せないような、いろんな想像や妄想が、ぐるぐるぐるぐる。
「……折角ですけど、やっぱり、相沢さんには見せない方がいいですね」
「……う、うん。わたしも、そう思う。それにこれ、名雪さんのだしね」
∬ ∬ ∬ ∬
祐一さんといっしょに、学校に行こう。
この歩道の青い標識みたいに、自転車に乗ったり、手をつないだりしながら。
毎朝そんなふうに学校行けたらいいなぁ、って思うんだけど、
祐一さんの家、学校を挟んでわたしの家とはちょうど反対側。
それに、毎朝遅刻ギリギリで教室に駆け込んでる祐一さんと名雪さんのことだから、
わたしもいっしょに走ったら、絶対、途中で倒れちゃうだろうし。
だから、学校で。
「あの〜、すみませんーっ」
「どうした、栞？ 教科書忘れてきても俺貸せないぞ」
「３年の教科書を１年のわたしが借りてもダメですっ」
赤リボンの制服でにぎわう廊下にひとり、ちょっと場違い緑リボン。
ここは３年の教室、お姉ちゃんと祐一さんと名雪さんのいるクラス。
こうやって上級生のクラスに来るの、やっぱり緊張しちゃいますー。
「祐一さんっ。これ、名雪さんに渡しておいてもらえませんか？」
もうチャイム鳴りそうだったし、
お姉ちゃんも名雪さんも教室にいなかったので、小さな紙袋祐一さんに預けて。
名雪さんにこの前借りた『苺ぱんつ』、洗濯してしっかりアイロンも掛けて、
（お姉ちゃんの真似して、スチームアイロンにローズウォーターを一滴、垂らしたりして）
畳んで袋に――入れておいたんだけど。
「ハンカチか？ あいつもまあ、本当にいちごマニアな……」
「わ、わっ、開けちゃダメですっ！」
ハンカチ、というのは――三角形の布地を２枚合わせたような形をしてたり、フリルやレースやリボンがついてたり、
ましてやゴムが入ってたり伸びたりするものじゃないですーっ！
「な、ななな栞ぃ？！」
「ゆっ、祐一さんっ」
祐一さんが無意識のうちに袋の中身取り出すと、
手には苺ショーツ。つまり、おんなのこぱんつ。
そして――ここ、クラスメイト皆がいる教室っ！
「おいパンツだよパンツ」「相沢、お前って奴は」「相沢君のえっちー」
「……呆れた。栞も相沢くんも何やってんのよ、馬鹿ね」「うにゅーーっっ！！」
クラス全員の視線を浴びて、それはもう教室中ちょっとした騒動に――って、な、名雪さんっ？！
ごごごごごご。
名雪さんから、怒りのオーラが立ち上るのが見えた（……ような気がする）。
名雪さん、顔を真っ赤にして祐一さんから苺ぱんつを奪い取ったかと思うと、
次の瞬間教室中に響くような派手な音を立てて、頬をぱしーんと平手打ちっ。
「祐一のばかあっ！！」
「名雪さん、まだ怒ってます？」
「……怒ってる。俺、家でも学校でもずーっと針のむしろ状態」
「――あの時、『殴ったね？！ 親父にもぶたれたことないのに！』なんて祐一さん言うからですよっ」
「いや教室の皆の笑いを取るにはあそこで一発」「取らなくていいですっ」
あれ以来、百花屋さんのイチゴサンデーでもまったくダメなぐらい、
祐一さんと口もきかないぐらい、名雪さんはとってもご機嫌ナナメ。
あれからもう何日も経つのに、祐一さんと名雪さん、まだ仲直りできてません。
……そのせいで、秋子さんがお出かけすると、
名雪さんが作るごはんが、祐一さんのぶんだけ全部賞味期限切れ食材になっちゃったり。
「晩ご飯のメニューが俺の嫌いなものばかり３連発。名雪は『――嫌なら食べなくていいんだよ？』光線、出してるし」
「食べなかったら名雪さん、さらに機嫌悪くしそうです」
「今日も秋子さん、家にいなくてさ。今日は日曜日だってのに、仕事忙しいらしくて」
「……じゃあ祐一さん、うちに来ませんか？ わたし、お昼ごはん作りますっ」
そんなわけで、今日みたいな良く晴れた日曜のお昼は、
電話で祐一さん誘って（逃げてきた、ともいうけど）、
わたし特製、スペシャルおうちランチ。
わたし腕振るっちゃいますよっ、いろいろメニュー考えて一生懸命お料理しちゃいます。期待しててくださいねー。
そう言えばこないだテレビで見たんですけど、中国では『吃飯了馬？』、「ごはん食べた？」が、こんにちわの挨拶代わりなんだそうです。
そういうのって、なんだかほのぼのしてていいなぁ……って、思いません？
「そうだ、香里からも、名雪に機嫌直すよう言ってもらえないか頼んでみるか」
「うーん、お姉ちゃんは名雪さんの味方だから……あんまり期待しないほうが」「そうかもなぁ」
「それに今日、お姉ちゃん出かけてます。パパもママも。――今日はうち、わたしだけなんです、祐一さん」
今日はふたりでおうちランチ、
――今日は、栞を食べたいな。
お残しは、ダメですよっ……。
メインディッシュはわたし、デザートも、わたし。
今日みたいな、お家に誰もいない日曜のお昼は、祐一さん”お誘い”、して――。
恋人さん達の、甘い時間。
まずは、キスを、ひとつ。
時間を惜しむように愛を紡ごうと、先に祐一さんを、２階に。
誰もいない家、彼氏さんと２人きりの、プライベートルーム。
【Shiori】と彫られたドアプレートのぶら下がるドア。
６畳の洋室の窓際にはウッディな机と椅子、机の上には参考書や辞書。
壁際にはスプリングベッド、女のこらしい淡い色柄のベッドカバー。
整然と本やＣＤの並ぶブックシェルフ、陽光溢れるレースのカーテン。
全身の映る大きなスタンドミラーに、チェストの上には雑貨や小物類。
それに、ハンガーに掛けられた、見慣れた赤リボンの制服――？？
「え？」
「祐一さんっ。ここ、お姉ちゃんの部屋ですっ」
祐一さんに続いて部屋に入って、ちょっと怒ったような口調でそう言って、
後ろ手で部屋のドアをぱたんと閉めて、鍵も、カーテンも。
――ホントは、わたしが２つの部屋のドアプレート、
【Shiori】と【Kaori】のプレート、祐一さんが来る前に取り替えておいたのだけど。
「もうっ、そんなにお姉ちゃんの部屋に、興味――あったんですか？」
「……え？」
わたしの書いたシナリオ通り、
わざと、わざと小悪魔的な態度で、
「お姉ちゃんのこと、知りたいんですね」
キレイな彼女。
クラスメイト。
従姉妹の親友。
そして、
恋人の……姉。
興味が無いって言ったら、嘘になる。
――興味って、どんな？
「じゃ、お姉ちゃんのヒミツ、教えちゃいます――お姉ちゃん、こんな下着、してるんですよ」
大人びた口調で、囁くようにそう言って、
わざとゆっくりと、焦らすようにゆっくりと、
お姉ちゃんの部屋で、祐一さんのすぐ目の前で、
スカートの裾を、両手でゆっくりたくし上げる。
ちらりと膝頭が。色白な太股が。あと２０センチ。１０センチ。５センチ。
「あ……」
息を呑む音。
スカートの下には、魅惑的なレースの黒ランジェリー。
それは、恋人の、姉の――。
クラスメイト。
従姉妹の親友。
そして、
恋人の……姉。
もし彼女に、もしこんな刺激的な「勝負下着」の彼女に、
ラブホの入り口で『ステイ・オア・レスト？』とか、囁かれちゃったら。
『ご休憩にしとく？ それとも……朝まで？』とか、誘惑されちゃったら。
心のブレーキ、効くだろうか。
「今日のわたし、お姉ちゃんみたいに、セクシーですか？」
「……ああ」
「祐一さん……。お姉ちゃん、帰ってくる前に……」
お姉ちゃんの、ベッドで。
まずは、キスを、ひとつ。
「んっ」
祐一さんに服を脱がされても、祐一さんが入ってきても、
黒の下着だけは、つけたままで――。
祐一さんだって”その気”でうちに来るんだし、
それじゃあわたしの方から、女のこの方からっ、
『らんじぇりーらす』なわたしで迫っちゃおうと、密かにわたし、思ってたんだけど。
でも、温厚であまり怒ったりしない名雪さんが、ぱんつ見られたら激怒して祐一さんを平手打ちっ。
じゃあ、名雪さんほど温厚じゃないお姉ちゃんが自分のぱんつ見られて、それに、えっちなコトまで！
……もしお姉ちゃんにバレたら、祐一さん、どうなっちゃうんだろうっ？！
平手打ち”程度”で済むだろうか。
…………。
だからお姉ちゃん、
わたし、お姉ちゃんの黒いの黙って借りてはいたり、祐一さんに見せちゃったりは、しなかったからっ、
２つのドアプレート、お姉ちゃんが出かけた後に取り替えておいただけだからっ。
だからお姉ちゃん、
シーツはちゃんと新しいのと替えたし、祐一さんと一緒に部屋もお掃除したから（証拠隠滅、ともいうけど）、
――勢い余って、お姉ちゃんのベッドで祐一さんと……しちゃったのは、おねがい、許してくださいー。
「ん……大好きです、祐一さん」
お姉ちゃんの、ベッドの中で、
……『らんじぇりーれす』な、わたし。
祐一さんと、キスを、何度もして。
「……今日、祐一さんちょっと激しかったですっ」
「栞だって、今日はずいぶん……その、えっちだったぞ」
日曜日の午後のひとときのことは、２人の秘密。
お姉ちゃんの匂いがいっぱいするベッドでだと、
わたしもいつもより興奮しちゃいましたってのも、
ナイショにしておこう――クセになるかも、しれないから。
「……えっちさんですね、わたしたちって」
「……そうかもしれない」
それはさておき、
「こっちが栞の部屋か。――なんと言うか、やっぱりこっちが栞の部屋だな」
「それ、どーゆー意味ですかっ」
お姉ちゃんのベッドシーツだけ洗濯したり、お姉ちゃんの部屋だけお掃除すると、
当然『あたしのいない間に部屋で何かあったの、栞？』って疑問に思われちゃうから、
祐一さんと２人で家中のベッドシーツ洗濯したり、１階も２階もぜーんぶ掃除機かけちゃったり。
「ひとの家来て何やってるんだろうな、俺って」
「……すみません、祐一さん」
でも、ふと
お料理、お掃除洗濯、それに……えっちなこと。
――これって、し、新婚さんごっこ……かな。祐一さんと――。
とか、思わず赤面、しちゃったり。
「それにしても、名雪の機嫌どうやったら直るんだろうなあ」
「ごめんなさいのメッセージ添えて、何か名雪さんの好きなもの、プレゼントするのはどうですか？」
「イチゴ関係はダメだろうな、あいつの神経逆撫でしそうだ」
名雪さんが喜びそうなもの。
そうだ、アレはどうだろう。
「名雪さん、寝るの好きですよね」
「ああ、大好きだ――って、もしかして、ベッドをプレゼントしちゃうのか？」
「違います違いますっ……パジャマなんか、どうかなーって。眠るときにはパジャマ、必需品ですし」
くつろぎパジャマ、夢見るパジャマ。
洗いたてのふわふわピュアコットンパジャマに包まれてぐっすり眠ったり、
あったかネルのパジャマとブランケットにくるまって夜のーんびりしたり、
だぼだぼメンズサイズの袖や裾を何度も折り返して女のこが着ちゃったり。
「確かに、名雪喜びそうだな。でも、パジャマってお店の婦人コーナーにあるんだろ。俺があそこ行くのはちょっと恥ずかしいぞ」
「大丈夫ですっ。祐一さん、今こーゆーのありますから。パジャマも、ちゃんと載ってますよっ」
そう言って、
こないだ天野さんと一緒に買った通販のカタログ誌を、祐一さんに。
――でも、祐一さん、名雪さんにこのカタログ見せて
『どれが欲しい？ どれでも買ってやるから』なんて言ったら、絶対ぜったいダメですよっ。
贈るまで名雪さんにはプレゼントのことナイショにして、
どんなのが好きそうかな、どんなプレゼント贈ったら喜ぶかなって、
祐一さんなりに一生懸命に考えて、いっぱい悩んで、迷って、ひとつ選んで――そして、きれいにリボンを、かけて。
たとえば、
夫の大事にしてる懐中時計につける鎖を買うために、自慢の美しい長髪を売った妻のように、
そして妻の美しい髪を飾る髪飾りを買うために、大事にしてた懐中時計を売った夫のように。
……そんな素敵なプレゼント、心の込められたプレゼント、女のこはみんなそんなプレゼント、とっても嬉しいから。
だから、祐一さん。
わたし、ひとつお願いがあるんですけどっ。
∬ ∬ ∬ ∬
「宅急便ですー。伝票にハンコかサインお願いしまーす」
「あ、はいはい」
サインと引き替えに、留守番のあたしが受け取ったのは、
サイズの割に意外と軽い荷物。どこかの通販会社からだ。
ママに、だろうか――いやいや、伝票の宛名は栞に、だ。
服でも買ったのかしら――まあ、今まであたしのお下がりばっかりだったしね。
あの子が元気になってから、相沢くんと付き合うようになってから、
栞もずいぶん”お出かけ服”が増えて、デートの前には明日着る服のコーディネート、考えたりしてるみたいだし。
「おねーちゃん、ただいまー」
「お帰りなさい。栞に荷物、届いてるわよ」
「わ、ホントっ？」
わーいっと嬉しそうにテーブルの上の段ボール箱を開ける栞。
……もう、プレゼントとなると子供みたいな顔で喜ぶんだから。
「わぁ♪」
荷物の中のクッションに包まれた内箱、ギフトラッピング用のブルーの飾り箱の中には、
スケルトンペーパーに包まれた、レースいっぱいのブラ＆ショーツ、とっておき上下お揃いセット。
色は可愛いフラワーピンク、女のこだけ楽しめちゃう甘い甘いラブリーカラー。
柔らかくて、ふわふわしてて、温かくて――恋するキモチを具現化したような、女のこの、色。
「栞、それ買ったの？ 可愛いじゃない、栞が選んだの？」
「えっと、実は祐一さんにお願いしちゃいましたっ。わたしも、届くまでどんなのかわかんなくてー」
「相沢くん、結構センスいいじゃない。栞によく似合ってるわよ」
祐一さんに通販カタログ渡して、名雪さんのパジャマを選ぶついでに、
祐一さんが気に入って、わたしも気に入りそうな素敵な下着を上下おそろいで、
とてもおしゃれで、大人っぽいわたしになれちゃいそうなインナー、選んでください、
そしてわたしが代金払うから、わたし宛てに届くよう注文してください――って、お願いしたの。
ただし、お願いは、もうひとつ。
「こないだ栞、ずいぶんこんな可愛い下着欲しがってたもんね」
「――あのねっ、お姉ちゃん。ホントはこれね、おねーちゃんにプレゼントっ！」
「え……ええっ？！」
祐一さんに通販カタログ渡して、
ちょっと難しいかもしれないけど、わたしじゃなくてお姉ちゃんがしても似合いそうなのを、
２人でしても、同じぐらいよく似合いそうな色デザインのを選んでね――って。
だから、『絶対ナイショですよ』って祐一さんに耳打ちしたのは、実は、”お姉ちゃんサイズ”。
「アンダーバストが７０で、カップサイズが――なんですけど」
「栞。……いくら何でも、栞のその胸でそのブラサイズは、サバ読みすぎーの見栄張りすぎーだと思うぞ」
……最初祐一さんに誤解されて、思わず『違いますっ、これが証拠ですっ！』って、
お姉ちゃんのブラ持ち出して、祐一さんめがけて投げつけたりしちゃったけど。
「……確かに、大きいな」
「あ、あんまりジロジロ見ないでくださいっ。お姉ちゃんのなんですからっ」
「で、こっちは小さいな」
「ひ、ひとの胸見て言わないでくださいっ。気にしてるんですからっ」
わたしがしたかったのは、
上下おそろいのお気に入りブラ＆ショーツ１組を、お姉ちゃんとわたしではんぶんこ、しちゃうこと。
ブラはお姉ちゃんに、そしてショーツは、わたしが。
「ど、どういうこと？」
「祐一さん、間違えて大きなサイズ注文しちゃったみたい。でも、偶然これ、お姉ちゃんサイズだしー」
だから、わたしは祐一さんプレゼントしてくれたこの素敵なブラ、”まだ”サイズが大きくてつけられないから。
だから、わたしの胸がそのサイズに成長するまでは、お姉ちゃんにこれ、『貸して』あげるから。
だから、わたしが将来、お姉ちゃんみたいなステキな女のこになれたら、
憧れのオトナなおねーさんになれたら、その時はこのブラ返してもらって、わたしがしちゃうからっ！
それはもう嬉々として、あたしに”未来”の話をする栞。
――ほんの少し前まで、余命幾ばくもないと宣告されていた栞が、あたしの妹が、
今、笑顔であたしに”未来”の話をしてる。
「……いつになるかしらねぇ、そんな日は」
「あ、おねーちゃんひどいですっ。すぐになれますよっ、わたしだって」
口ではそう冗談めかして言ったけど、
栞が瞳を輝かせて語ってることが現実になるのは、そう遠くないような予感が。
「でも、いいの？ せっかく上下お揃いセットなのに」
「いいの、”半分こ”で。――だって、お姉ちゃんといっしょだもんっ」
「もう１組栞のサイズで注文して、２つ揃いで買えばよかったじゃない」
「だって、わたしが代金払うんだよ。お金ないから２つも買えないし……」
「……ショーツの方も、時々栞のタンスの引き出しから借りていこうかしら？」
「だめー。第一ぱんつはわたしサイズだから、お姉ちゃんのお尻入りませんっ」
むにゅー。
「だーれーがー、お尻大きいですって？」
「おねえひゃん、いひゃいー」
ぎゅーと引っ張った頬から手を離して、
あははって栞とふたり笑い合った、
うん、いっしょだね、お揃いだねって姉妹でくすくす微笑み合った、午後の昼下がり。
そして、
ふたりでソファーに座って、振込用紙と一緒に入ってたおしゃれなインナーカタログ最新号、
『こんなのもいいね、素敵だねっ』って姉妹で仲良く眺める、午後の昼下がり。
カタログには夏の肩出し＆肩見せ女のこ御用達、透明クリアストラップとか、
これなら進んで”見せブラ”しちゃいたいスパゲティー・ストラップとか、
ちらりと覗く素肌がとってもセクシーな透け感レースに編み上げリボンとか、
とっても素敵なのが、女のこの大好きなのが、たくさんたくさん。
「あ、このページに載ってるのが栞のよね。あたしも、同じの買っちゃおうかな。……ブラは、栞サイズでね」
「でも、２つとも同じデザイン同じ色だったら見分けつかないよー。自分のぱんつに名前、書いとこうかなぁ」
「じゃあ、あたしはお揃いデザインのこっちのにしようかしら」
指差したのは栞のレース上下お揃いセットとペアの、
お尻までレースいっぱい、オトナなタンガショーツ。
「……わ、わっ！ これって、Ｔバックぱんつっ？！」
「違うわよっ、栞。ほらバックスタイル、後ろが紐じゃないでしょ」
「あ、ホントだー。でもこれ、どっちが前か後ろかわかんないかも」
そうねって笑いながら、これでホントにお揃いだね、『らんじぇりーらす』なふたりだね、
今度いっしょに、名雪の言ってたあのショップに行ってみようねって約束した、午後の昼下がり。
「ね、お姉ちゃん」
「なぁに？」
「わたし、こんなコトしてみたいなー。前テレビで見た映画にね、こんな１シーンあったの」
栞が指差したのはカタログの１ページ、
とっても仲良しさんなふたりのかわいい女のこが、フリルやリボンいっぱいの下着姿で、
シフォンのホワイトスリップおうち専用ワンピにして、お部屋の中でごろごろしちゃってる姿。
ＣＤプレイヤーのイアフォン片方づつふたりで”半分こ”して、音楽も”半分こ”、してる。
さんさんと陽の照らすファッション雑誌の中みたいな素敵なお部屋で、
おっきなクッションに寝そべりながら、レースやシルクを部屋着代わりにして、
とてもキュートなランジェリーで、いつもとは違う『特別なあたし』になって、
なんにもせずにごろごろ転がりながら、栞とふたり笑いながら、ゆっくり過ごす。
ラフなＴシャツでもない、パジャマでもない、インナーで過ごす日曜日。
――すごく贅沢な、お休みの使い方かも。
「うん、パパやママのいない時、そんなのもいいかもね」
「でしょ？」
「うちにも今日、パジャマ届いたぞ」
「あ、そうか。同じ街だし一緒に注文したら一緒に届くんですよね。で、名雪さんは？」
「早速、あのパジャマ着て寝てる。ゆーいちありがとーおやすみー、って」
電話でおしゃべりしながら、祐一さんからの素敵なプレゼント眺めながら、ベッドの上でごろごろ。
……祐一さんの選んだ”ごめんなさいプレゼント”で、
名雪さんもご機嫌直してくれたみたいで、２人仲直りできたみたいで、わたしもほっと一安心。
これでまた、朝の通学路で「おはようございます、祐一さん、名雪さんっ」って、笑えるかな。
「お姉ちゃんにも、『ありがと』って祐一さんに電話しよっ、って言ったんですけどね」
「結局香里にやっちゃったんだ、アレ」
「お姉ちゃん、とっても喜んでましたよ。これ大切にするわね、って」
……あっ、よく考えたら祐一さん、
女のこのトップシークレット、お姉ちゃんのブラサイズ知っちゃったわけで、
（香里って、そんなに胸あるんだ……）とか変に意識しちゃって、
学校で会ってもお姉ちゃんの姿、ドキドキで直視できなくなっちゃうかも、なっちゃうかもっ。
「今度、お休みの日にお姉ちゃんと買い物に行くんです。お礼にいいの、選んであげるって」
「香里に服とか選んでもらうのか。いいな、姉妹って」「はいっ」
名雪さんにも、天野さんにも、祐一さんにも、
姉妹っていいね、仲良しさんなふたりだね――って。
なんだかすごーく嬉しく、なっちゃいます。
よーし、新しい下着買ったら、
お休みの日にお姉ちゃんと下着姿でごろごろしちゃって、
お泊まり会のとき、天野さんと【ぱんつ勝負】、しちゃって、
そして祐一さんに『らんじぇりーらす』なわたし、見せちゃおっ。
祐一さんに、とっておきのスペシャルなわたしをプレゼント。
レースや刺しゅういっぱいのおしゃれランジェリーでわたしをラッピングして、
プレゼントのリボン代わりに、ほどきたくなるようなひも結びぱんつ。
もちろんメッセージ・カードには、
”ぷれぜんと・ふぉー・ゆー……いちさん”、って。
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