キーンコーンカーンコーンと授業を終える鐘がスピーカーから流れる。
ガタンと開く扉。祐一には次に続く声が誰のものか、見ずともわかっていた。
「祐一さん♪」
クラス全員が注目する中、彼女は素敵な笑顔を浮かべて教室に入ってくる。
もちろん、注目度はバッチリである。
「さ、佐祐理さん」
今の彼女は危険である。祐一は今朝の経験から踏まえて、そう判断する。
脳内では満場一致で戦略的撤退を訴えている。つまりは逃げるということだ。
鞄を引っ掴み、佐祐理を抱きかかえて出口から出ようとしたところで、
「祐一さんっ♪」
彼女は真っ直ぐ祐一の机の前に来ると飛び込むように抱きついてきた。
「うおっ！」
そのまま床に押し倒される形になる。さすがにここまでの行動は予想せずにいたので抵抗できなかった。
だが佐祐理は気にした様子はせず、そのまま強く抱きついてくる。
「さ、さささ佐祐理さんっ！」
「祐一さん、暖かいです〜♪」
祐一の動揺を無視して、頬を制服をこすりつけてくる。
目眩を覚えた。可愛い顔で見つめてくる。
ドキッ、と心臓が高鳴った。
とろーんした、色っぽい『女』の目・・・
ため息を吐いた。
まるで自分がサキュバスに捕らえられた蝶になった気分である。
「・・・相沢君、ここ教室よ」
二人だけの世界に押し込まれていた時、唐突に第三者の声。
その声に我に返り、周りを見回して、後悔した。
クラスメイト全員がこちらに注目していたのだから。
恋は唐突に、急発進で
クラスメイトが向ける反応はさまざまである。
好奇心の視線で見ている者、羨ましそうに見ている者、無関心でそのまま教室を出て行く者、そして一番多いのが殺気を放っている者、と。
祐一は寒気を覚えた。だが逃げられない。押し倒されているのだから。
だが、行動に起こさないだけまだましであろう。実際、目の前でベタベタラブラブバカップルが教室にいたら、蹴りたい衝動に駆られていても仕方がないと思っていたのだから。
と、いうかさすがに自分が、バカップルを演じるとは思っていなかった。
いや、付き合っているわけではないのだからバカップルを演じるというのには語弊があるかもしれないが。
（だけどさ・・・こういう奴らには晒し者にされている本人の気持ちなんてわからないだろうな・・・まぁ、永遠に無理だろうが）
心の中で溜息を吐きつつも、聞かれていたら蹴られているであろう事を思う。
だが、嫌というわけではない。というか、実はかなり嬉しい。
倉田佐祐理という女性は祐一の知る限り、親友である川澄舞以外の前では誰であろうと一歩、後にさがった距離を置く女性なのだから。
それは佐祐理が親友だといってくれた相沢祐一という人間であっても。
そんな彼女が、後に下がった距離ではなく、近い距離で接してきてくれている。そんなことが祐一には嬉しかった。
ただ・・・彼女の行動はものすごく過激だった。
「祐一さんって大きいですよね」
抱きしめつつも、唇があと何センチかで触れそうな距離で会話する佐祐理。
「いや、俺の身長的には平均的だけど」
「そんなことないですよ、だって・・・」
佐祐理がギュッと強く抱きしめる。
「佐祐理は祐一さんに比べて小さいですから、祐一さんがとっても大きく見えるんです」
「い、いや、あの・・・」
佐祐理の胸が自分の胸板に当たっているという事実に、祐一は赤面してしまう。
「祐一さん〜♪」
祐一の制服に佐祐理の匂いを移すように頬を気持ちよさそうに擦りつけている。
今の佐祐理の表情を一言ではっきりと表わすなら『幸せ』という言葉だろう。まるで猫が無邪気にご主人様に顔をこすりつける。そんな連想が祐一の頭をよぎる。
そんな佐祐理を見て、祐一も幸せな気分になる。思わず抱きしめ返したくなる、が・・・・
「はわぁ〜、す、凄いですね、お姉ちゃん」
「そうね、でもできればラブシーンはこういうところでするものじゃないと思うけど・・・」
「祐一、お幸せにね♪」
「多分、お前はクラス男子の８割近くを敵に回していると思うぞ」
クラスメイトの中でも最も親友だといえる３人。香里、名雪、北川、それとなぜかここにいる香里の妹――栞の好奇の視線に見られて思わず頭を抱えたくなる。
ちなみに他の周りにいる連中のことはあえて考えない事にしている。殺気じみた視線が怖いので。
「・・・・・・何をしている、お前ら」
「祐一さんと倉田先輩、まるでドラマに出てくるラブラブカップルみたいです」
「別に。ここは教室で私たちがいてはいけない場所ではないはずよ」
「あ、私はそろそろ部活に行かないと。じゃあね、祐一」
「うむ、息を吸って人間をやっているぞ」
質問に答えない栞に、正論を吐く香里、北川にいたってはつまらんボケをかましてくる。
名雪は何事もなかったように一言挨拶すると慌てて教室を出て行った。部活があるなら最初から構わないでほしかったが・・・
佐祐理はそんな周りの事など興味がないかのように、さらに強く抱きしめる。
「うはっ！？」
当然、それに伴い、豊満な胸も強調されて祐一に押し付けられる。
天国と地獄。
潤んだ瞳で見つめられて、理性が崩壊する音が聞こえてくる。
「さ、佐祐理さんっ！？」
「はい」
理性がとろけるほどの可愛さ。それが真実ならば祐一の理性はもうドロドロに溶けて、復元不可能になっているだろう。
思わず佐祐理の髪を撫でる。
・・・サラサラとしていて柔らかく、撫でていくごとに甘い匂いが祐一の思考を侵していく。
「・・・祐一さん」
声につられて視線を上げると、潤んだ瞳で見つめられていた。
「・・・もっと撫でてください・・・」
「・・・う・・・はぁ・・・」
ため息を吐く祐一。
逆らえるわけがなかった。
この時、すでに祐一は倉田佐祐理という少女に壊されていたのだから。
なお、二人が立ち上がったのは、それから５分後のことである。
「「「・・・・・・」」」
ちなみに、ラブラブカップルを演じている二人を見つめていた教室の皆は声もなく、呆然と見続けていた。
朝は名雪の声が入った目覚し時計で起こされる。
着替えて、名雪を起こして、朝食を食べる。
それがいつもの日常。変わることのない、変わらないはずの毎日である。
だが・・・変化はこの時、表れた。
（・・・・・・朝・・・か・・・・・・）
窓からこぼれる日の光が顔を照らす。
祐一は目を開けた。時計を見ると、いつもは自分が起きる１０分前の時間である。
だが目が覚めたからといって、すぐに起きられるわけではない。
この目が完璧に覚める前の惰眠を貪る時間がすきなのである。
祐一は頭から布団をかぶる。あと１０分のタイムリミットを満喫するために。
「祐一さん〜、朝ですよ〜、起きてくださいーっ」
（・・・・・・）
１０秒も経たないうちに目覚ましが鳴ってしまった。
無言で布団の中に手をのばし、カチッと目覚ましを止める。
「・・・我千年の眠りを妨げる者は滅ぼした・・・というわけで俺は寝る・・・」
訳のわからないことをほざきつつ、再び夢の世界に舞い戻る。
だが、
「起きてください、祐一さん」
今度はユサユサと体が揺すられる。
（・・・知らなかった。名雪から借りた目覚し時計に遠距離振動装置がついていたとは）
半分、寝ぼけた頭で考える。
だが、実際にそんな装置はついているはずがないし、良く聞いてみればこれも名雪の声ではない。
寝ぼけた頭でさらに考える。
（・・・夢か）
聞き覚えのある声、ここにいるはずのない女性の声である。そしてここは自分の部屋。
重要なところは、これが名雪の声ではないということである。つまり目覚し時計はまだ鳴っていない。ならば考えられるのは夢だということである。
夢ならば自分は寝ていなければいけない。
思考は再び睡魔にもっていかれる。
「ぐぅ・・・」
揺すられるのも、ゆりかごが揺れているものだと思えば大したことはない。
「ふぇぇ、起きてくださいよ〜、祐一さ〜ん」
困ったような、そして甘ったるい声。それは人を安心させるような、甘えさせてもらうような、とにかく心地よく、余計に眠気を誘う。
「・・・祐一さん」
急に声音が小さくなる。
「・・・起きてくれないなら、佐祐理にも考えがありますからね」
（・・・夢の中の佐祐理さんかぁ・・・）
とりあえず、思うことはそれだけであった。
瞬間、身体にかかっている感触の良い重みが一瞬なくなり、冷たい空気が祐一の体を襲う。
だが、すぐに暖かい物体が祐一の身体に覆い被さった。
「・・・・・・肉マン・・・ぐぅ・・・」
「あははーっ、佐祐理は肉マンじゃないですよ」
耳にかかる暖かい息、甘い声。
かかる息が耳から頬に移動して・・・
「・・・それに肉マンは祐一さんです。だから食べちゃいますね・・・」
唇に湿った、暖かい感触。そのまま・・・
「むぐぅっ！？」
祐一は急の息苦しさに目を開けた。
そして驚いた。
それもそのはずだろう。目を開けたらいきなりキスされていたのだから。
佐祐理は祐一が目が覚めた事に気づき、名残惜しそうに唇を離す。
「おはようございます、祐一さん」
微笑んで挨拶してくる。だけど少し顔が赤い。
「・・・あ、ああ」
そうして祐一の頭は混乱しながらも、何とか返事を返す。
今の状況を必死に考える。なぜ彼女がここにいるのか？
約束はしていない。と、いうかここの住所を教えた記憶すらない。
朝、起こしてもらうような間柄でもなかったはずである。幼馴染でもなければ、恋人でもない。数ヶ月前に初対面を果たしたのだから、決してありえない。
・・・そしてキス。寝ている間にキスされた・・・これもありえることではない。そういう願望がないのかと聞かれれば、キッパリあると答えるが、現実世界はそれとは違う。
以上のことから考えて、結論――
（・・・やはり夢だな）
夢は心の奥底にある願望を表わす時があるという。つまり朝、佐祐理にキスで起こされるという願望が強く、夢で現われてしまったということだろう。
とてもいい夢である。
再び、布団を掴み、覆い被さる。一刻も早く、夢の続きを見るために・・・
「ゆ、祐一さん。再び布団の中に入らないでくださいよぉ」
「・・・おやすみ、夢の中の佐祐理さん。夢でまた会おう・・・」
「ふぇぇ、佐祐理は夢ではなくて現実の人間です。いいから起きてください」
「ぐぅ〜」
「・・・・・・」
わずかな沈黙。だが祐一は気にせず、眠りの世界に片足を踏み入れる。
・・・頬に優しく手を添える感覚が伝わってきて。
さっきと同じく唇に暖かいものが・・・
だが今度はそんなことでは目が覚めなかった。慣れではなく、予想の範囲内であったからだろう。
佐祐理は祐一の鼻をつまむ。唇は離さず、そのままで。
１０秒、２０秒と過ぎていき・・・
「んっ！！！」
再び目が覚めた。
だが、今度は目が覚めた事はわかっているはずなのだが、唇を離そうとはしない。
このリアルな感覚。
さすがにこれが夢ではない事に気づいていた。
だけど抵抗できない。
できることは目をつぶり感覚に身を任せることだけだった。
「おはようございます、祐一さん」
唇を離した佐祐理は極上の笑顔で挨拶をする。
祐一はそれに応える余力はなく、呆然とした瞳で息を喘がせながら天井を見つめるだけであった。
「・・・たこさんウインナ−、嫌いじゃない」
「まだまだあるからたくさん食べてね、舞」
「・・・はちみつくまさん」
いつも通りの風景、いつも通りの日常、いつも通りの時間。
だが、変わらない場面もあれば、変わってしまった場面もある。
「はい、祐一さん。あ〜んしてください」
「・・・・・・」
笑顔で箸を口元に持ってくる。
無言で前を向くと、
「みまみま」
舞はこちらのことなど眼中がないかのように、弁当をパクついている。つまりは助け舟もツッコミもないということである。
・・・元から期待していなかったが。
「あ〜ん♪」
躊躇しても事態は変わらない。いきなりここで名雪か北川でも乱入して、ボケてくれでもしてくれれば事態は急変するのだろうが、さすがにそんな都合のいい事が起きるはずがない。
「あ〜ん♪」
祐一にしなだれかかるように座り、片手を箸に、もう片手を箸でつかんだたこさんウインナ−が落ちないように添えていることから、いかにも本気ですという感じが読み取れる。
これがいつもの冗談なら、遠慮なく箸に食らいつくのだが・・・
だが正直、今さらだとも思ってしまう。食べさせてもらう事とは比べ物にならないことを今朝されてしまったのだから。
かといって、いきなり大胆になれるほど祐一は場慣れしていない。
「あ〜んしてください♪」
・・・していないのだが、太陽の女神に勝るとも劣らない彼女の笑顔に勝てるほど強くなかった。
「・・・ん」
「おいしいですか？」
佐祐理は顔を覗きこんで言う。
「・・・・・・うまいです。今日は格別に・・・・・・」
「それは良かったです」
そういいつつ、次は卵焼きを箸に取り・・・
「はい、次は出し巻き卵ですよ」
やはり口元に持ってきた。
恥ずかしさのせいか、照れのせいか、自分の顔に熱が持っていることを自覚するがどうしようもなかった。
「いや、そうすると俺ばかり食べる事になって佐祐理さんが食べれないだろうから・・・あとは箸をくれれば自分で食べれるから・・・」
何とか抵抗を試みるが・・・。
「箸ならありませんよ」
「へ？」
「箸なら舞が使っているのと佐祐理が使っているのだけですよ」
「・・・なぜに？」
「持ってこなかったからです」
なんとも率直な答えが返ってきた。
「でもそうですね。このままだと佐祐理は食べれませんから祐一さんのを半分もらう事にします」
（半分もらう？）
言っている意味がよくわからない。
だがそんな祐一の疑問はすぐに氷解される事になる。
なぜなら佐祐理がダシ巻き卵を半分だけかじりもう半分を祐一の口元に持ってきたからである。
「はい、祐一さん」
（・・・なるほど、確かにこれなら半分だ・・・）
思わず納得してしまう。
（・・・・・・ひょっとしてこれは世界に一つしかない佐祐理さん味の出し巻き卵では・・・・・・）
軽く混乱もしてしまう。
「あ〜ん♪」
「・・・・・・はい」
観念（？）して食べさせてもらう。
間接キスという事で朝の佐祐理とのキスが思い出される。
キスの感覚。暖かく、なめらかで、理性をとろけさせる唇。
顔が赤くなっているのを自覚し、ブンブンと首を振って気をそらそうとするが一度思い出してしまった感覚は頭に焼き付いてしまって、なかなか消えてくれようとはしない。
「どうしたんですか、いきなり首を振って？」
「・・・いや、なんでもない。気にしないでくれ・・・」
怪訝そうに見つめてくる二人に慌てて手を振る。あまりの気恥ずかしさ顔から火がでそうだ。
佐祐理さんが一拍呼吸を置き、少しだけ赤い顔で・・・
「佐祐理味のダシ巻き卵・・・おいしかったですか？」
「ぐっ！ゴホッゲホッゴホッ！？」
・・・あまりにも危険な爆弾を投下してきた。
「・・・はい」
「・・・・・・ぐっ、すまん」
舞からお茶を受け取り一気に飲む。
（・・・・・・にしてもいきなりなんて事を言うんだ、この人は・・・・・・・）
間違いなく狙って言ったのだろう。それだけは断言できる。
彼女のテンションは朝から非常高い。
朝のキス騒動といい（わざわざ家にまで来てくれた）、通学路での出来事といい（腕を組んできた）、放課後といい（抱きしめられた）、嬉しい事ばかりである（爆）
今日の彼女はわからない。というか行動が全く予測できない。それだけに佐祐理が何か行動すると、どういうふうに対処していいのかわからないのだ。
朝でのキスの出来事もどうしてそういう事をしたのかまだ聞いていない。
聞く機会がなかったというのも一つの事実だが、なにより聞いてしまったら戻れないような気がしたのだ。
考えるまでもなくキスというのは愛情表現の一つであろう。当然嫌いな相手にはキスしないだろうし、何となくでできる行為でもない。
（・・・・・・つまり佐祐理さんは・・・・・・）
「はぇ、どうしたんですか祐一さん？」
「・・・祐一、顔が真っ赤」
「なっ！？」
慌てて手のひらで頬を押さえると、確かに頬はこれでもか、ってほどに熱をもっていた。
ちらっ、と佐祐理のほうを見る。
彼女もこちらの考えに気づいたようで赤くなり、少しだけ俯きながらも笑顔を見せてくれる。
「・・・りんごのうさぎさん」
祐一と佐祐理が二人で赤くなって俯いているなか、舞はデザートであるうさぎカットのりんごを一人で食べていた。
「う〜〜っ」
風呂あがり、身体が温ったまった状態でポスッとベットに倒れこむ。このまま布団をかぶり、目をつぶりながら、羊の数でも数えれば２分で睡魔に襲われるだろう。
今日は土曜日とあって、昼食を食べ終われば午後は自由な時間が満喫できるわけである。
舞は昼食が食べ終わると同時に「・・・それじゃ」と一言残してシュタタタタッと豪快に走り去っていった。そんな舞は相変わらず訳がわからない奴だと本気で思う。
いつもなら佐祐理をゲーセンなり喫茶店なり誘い、楽しく時間をつぶすのだが今日に限って何故だか誘いにくい。どうしようか迷っていると佐祐理は「いろいろと準備がありますから」と言って退場してしまった。何の準備かは知らないがようするに忙しいという事なのだろう。
そんなわけで一人寂しくＣＤショップに行き新作をチェックして、ゲーセンで時間をつぶし今にいたると言うわけである。
確か古文の授業で、教科書一ページ分訳すという宿題が出ていたような気がしないでもないが、やる気は全くゼロ。そんな事は明日、名雪か香里の机からノートを抜き取ってしまえば事足りる事だ。もちろん変わりに『美坂香里譲 確かに古文の宿題が書いてあるノートは頂いた。こうなったらあとは諦めて先生に怒られるがよい、アハハハハハハッ！ 怪盗ケロピー』と書いてある足跡を残しておく事も忘れない。
さすがアフターケアーも万全なナイスガイである。
もっともバレたら明日の日の出は拝めそうにないが。
ゴロンとうつ伏せに寝返る。
「・・・・・・佐祐理さん」
思わず口に出るのは、一人の少女の名前。
舞の親友で笑顔が耐えない少女。だが笑顔の裏には暗い過去があり、自分はそれを知っている。助けにはなりたいのだが自分ではどうする事もできない。言葉をかけることはできるが、基本的に部外者である自分が突っこむ問題でもないのだから。
『・・・祐一と佐祐理は似ていると思う』
舞が言った言葉は的を得ている。
似たような過去を持つ二人。幼い頃、大事な人を無くした傷は、まだ癒えることはないのだろう。
ゴロゴロと転がる。
今日の佐祐理の態度はいつにも増して変であった。いや、別にいつもが変という訳ではないが。
（どうしたんだろうなぁ）
ぼんやりと考える。
ただ悪い事ではないと思う。あの時の彼女は本当に楽しそうで、恋する乙女だった。
ただ、痴差プレイは止めて欲しいが。
学校での出来事を思い出して苦笑いをしてしまう。
それでも良かった事もある。これまでも自覚していたのだが、今日のことでハッキリと確信した。
――やはり相沢祐一は倉田佐祐理の事がとてつもなく好きだという事が――
ゴロン、とまたもや転がる。
告白しようと思っている。
ひょっとしたら佐祐理に告白する事で今までの関係が終わるかもしれない。
彼女の態度を見る限り大丈夫だと思うのだが、心配の種はつきない。
どっちに結果が転んでも・・・
（それでも俺は・・・・・・佐祐理さんが好きなんだ）
しばらくゴロゴロと転がりながらどうやって告白するかを考えていたがやがて多大な眠気が襲ってくる。
「・・・・・・・８時３０分」
目覚し時計を見てみると、現時刻は小学生でもテレビを見ている時間である。
こんな時間に寝るのは名雪と同じレベルみたいで何となく嫌であったが・・・・・・明日、告白するのに寝不足の顔は見せられないと思いなおし、布団をかぶる。
眠気はすぐにやってきた。
・・・・・・暖かい。
布団の中に暖かいものがモゾモゾと入ってくる。
しかし入ってくる瞬間、布団が浮いてしまい、部屋の冷たい空気が隙間から侵入してきて、身体を冷やしていく。
だから無意識に暖かい物に抱きつく。半ば反射的に。
「きゃっ」
何か悲鳴のような物が聞こえたが無視する。
「ゆ、ゆういちさん」
動揺した可愛らしい声。もっと聞きたくなる、いじめたくなる、触れたくなる、甘えたくなる声。
その時点でこの温かいものの正体が判明した。
「・・・ピザまん・・・すぅ・・・」
「ふぇ？佐祐理はピザまんじゃないですよ」
ピザまんが何か喋っているがよくわからない。
ただわかる事といえばピザまんはとてもポカポカとしていて暖かい。ならばすることは一つだけである。
「・・・・・・あ」
ピザまんをギュッと抱きしめる。
ピザまんはとても暖かく、フニョフニョと柔らかい。もっとその暖かさを感じたいがために、腕に自分の方に寄せるように力をこめる。
「・・・・・・ゆ、ゆういち・・・・・・さん」
とてもいい匂いだった。理性がとろける、フェロモンとでも言うべきか、とにかく頭が真っ白になっていく。
「・・・・・・ん」
唇に柔らかい感触。
食べられた。またしても中華まんに食べられてしまったのだと祐一は直感する。
以前にもどこかでこんな事があったような気がするが思い出せない。
意識が少しずつ覚醒していくのがわかる。
薄く目を開けるとそこには頬は赤く染まっていて潤んだ瞳に恥じらいの表情の佐祐理がいた。
そこで理解する。ピザまんに食べられたのではなく、佐祐理にまたしても食べられてしまったのだと。
「・・・あ、祐一さん。起こしちゃいました？」
「・・・・・・」
明日、彼女に会ったら、したかったこと・・・
「・・・・・・佐祐理さん」
「はい、何ですか？」
「俺・・・佐祐理さんのことが一人の女性として好きなんだ」
佐祐理は一瞬驚いたようだが・・・
「・・・佐祐理も・・・祐一さんのことが大好きです」
優しく微笑んだ。
佐祐理は目を閉じるとゆっくりと顔を近づけていく。
これで彼女に食べられるのは何度目だろうとぼんやり考えながら、祐一も睡魔に身を任せながらゆっくりと目を閉じていった。
目が覚めると隣には佐祐理が寝ていた。
幸せそうな顔で、祐一の腕を抱いている。思わず頬が緩んでしまう。
空は良好な天気、思わず１００点をあげたくなる青空だ。
腕を抜くと起き上がり、う〜んと背中を伸ばす。とても気持ちがいい。
・・・ところで
「・・・・・・そういえばなんで佐祐理さんが来てるんだ？」
いくら考えても解けない疑問だった。
「・・・おかわり」
「はい、ちょっと待っててね」
「・・・・・・」
居間に下りると、何故か家で朝食を食べている舞がいた。
・・・わからない・・・果てしなくどこまでもわからない。
「・・・秋子さん」
「あら、おはようございます祐一さん」
「・・・・・・おはようございます」
秋子は相変わらずの笑顔で挨拶をしてくる。
考える事はいろいろとあるがとりあえず率直に思った疑問を口にする。
「・・・・・・秋子さん、何で舞がうちで朝飯を食べているんですか？」
「舞ちゃんなら朝、早く家に来たから朝ごはんに誘ったのよ」
なんとも簡潔で分かりやすい答えが返ってきた。
「・・・・・・ただそれだけですか？」
「ええ、それだけだけど」
「・・・・・・」
これ以上秋子さんから得られる情報はないと悟り、続けて舞に事情聴取を開始する。
「・・・よう、舞」
「・・・・・・よう、祐一」
片手を上げて挨拶する祐一に、舞は焼き魚に箸を伸ばそうとした手を一時中断して手を上げると、再び箸を焼き魚に伸ばそうとする。
「あのな、人が話してるんだからとりあえず箸は置いてこっちを向いたらどうだ？」
「・・・祐一より秋子さんが作った朝食の方が優先順位は高い」
うわっ、即答しやがった。
「・・・・・・いいからとりあえずは人の話を聞け」
テーブルから焼き魚が乗っている皿を取り上げる。
「・・・・・・」
舞が不満そうに睨みつけてくるが無視して話をすすめる。
「なんで舞がここにいるだ？」
「・・・祐一の家の前に立っていたら秋子さんに朝食に誘われたからここにいる」
「・・・・・・何で舞がわざわざ家の前に来るんだよ、舞の家とは全くの逆方向じゃないか・・・・・・」
「・・・佐祐理を迎えに来たから」
「なっ！？」
（・・・な、なんで舞に佐祐理さんが家に泊まった事を知っているんだ）
祐一は思わず狼狽してしまう。
横目で秋子を見てみると秋子は頬に手を当てたままでニコニコとしている。なにを考えているかさっぱりわからない。
よく考えてみれば佐祐理はどうやって自分の部屋に侵入したのだろう？
考えてみれば当然の疑問であった。昨日の朝も混乱していて、いつの間にか学校であったし。
そう、佐祐理が祐一の部屋に来たという事は、玄関からチャイムを押して秋子の了承を得てから部屋に来たという事が妥当だろう。窓から侵入してきたという事はありえないだろうから。
「・・・・・・・・・・・・あの・・・秋子さん・・・・・・ひょっとして夜中に誰か来ませんでしたか・・・・・・」
万が一というためにも『佐祐理さんが』ではなく『誰か』と言っておく。
だが真実は時には残酷なものである。
「ええ、夜中に倉田さんがきて祐一さんの部屋に泊めてほしいって言ってきたわ」
「・・・・・・・・・・・・それで秋子さんは何と？」
答えははっきり言ってわかりきっていたが一応聞いておく。
秋子さんは再び頬に手を当てて言った。
「了承」
やはり即答だった。恐らく前回も断りを得て、部屋に入ってきたのだと確信する。
軽い眩暈がするのを確かに感じた。確かに結果的にはその事には感謝しているが、男性の部屋に女性が泊まる事を容認してしまうのもどうかと思う。
「・・・・・・ごちそうさまでした」
「はい、お粗末さまでした。食器は置いたままで構いませんので」
「・・・わかった」
舞は秋子に軽く頭を下げる。
「祐一、佐祐理はどこ？」
「・・・・・・俺の部屋だ」
秋子が食器を片付けに台所に向かったのを見て答える。
「・・・祐一は佐祐理の事、好き？」
それは唐突な言葉だった。
「・・・ああ、好きだ」
祐一もよどみなく答える。
その時、祐一には舞が笑ったような気がした。
舞はそれだけ聞くと鞄を持って玄関へと向かう。
「どこに行くんだ、舞？佐祐理さんを迎えに来たんじゃなかったのか？」
「・・・・・・用事はもう済んだから」
「お前の用事というのは家で朝飯を食う事か？」
「・・・違う」
舞は違うというがここに来てした事といえば朝飯を食べた事だけなはずだ・・・。
食い意地のはった舞の事だ。きっと秋子さんの作った朝飯を食べる為だけにここに来たのだろう。ああ、そこまで卑しくなってしまったなんてお兄ちゃんは悲しい・・・
ボカッ！
舞がいきなりチョップをかましてくる。しかも結構本気モード・・・。
「・・・・・・」
「・・・これは何の真似だ、舞」
「・・・私は卑しくなんかない」
「嘘つけ」
即答で否定する。
正直な所、舞の優先順位といえば一に佐祐理。二に佐祐理が作ったお弁当。三、四が牛丼で五に再び佐祐理が作ったお弁当である。
つまり舞は一番の佐祐理を除けばその他は食べ物の事しか考えていないと思っていた。
「・・・・・・」
舞は思いっきり不満そうに祐一を睨みつけていた。
「祐一さん〜♪」
「・・・・・・佐祐理は甘えん坊」
「あははーっ、そうだよ、佐祐理は甘えん坊だよ〜」
「・・・佐祐理、可愛い」
「・・・お〜い」
後ろの方で二人が和気あいあいと話している。
ただそれだけなら何の問題もないのだが・・・。
むにゅっ☆
「・・・う」
むにむにゅっ☆
「・・・・・・うう」
「ふえっ？どうしたんですか、祐一さん。変な声出して？」
「・・・なんでもない」
「・・・でも祐一、顔が嬉しそう」
「ほ、ほっとけっ！」
舞に指摘されて祐一は慌てて顔を元に戻そうとするが・・・
むにゅっ☆
背中に押し付けてくる柔らかい感触に顔が緩んでしまうのを感じる。
ようするに佐祐理さんが後ろから祐一に抱きついているのである。
目立つ・・・
・・・・・・目立っている。
美少女とも言える二人を引き連れて登校している――しかも片方の美少女は背中から嬉しそうに抱きついている――のだから当たり前といえば当たり前だが。
「・・・ところで舞、何でお前がここにいる？」
「・・・私がいたらまずいの？」
睨んでくる。
「用事が済んだから帰るとか言わなかったか？」
「・・・気が変わった」
「・・・何故に？」
「・・・・・・・・・・・・佐祐理が祐一に襲われると思ったから」
「襲うかっ！」
本心ではないだろう・・・多分。
「祐一さんっ♪」
後ろから佐祐理に頬をツンツンとつつかれる。
後ろを振り向こうとして・・・
チュッ！
唇に一瞬、感触を感じた。
「なっ！」
身を乗り出してキスしてきたのだ。
「あははーっ、私達って周りから見たら恋人同士に見えますかね？」
赤い顔をして言う。
・・・ええ、見えますとも、おそらくバカップルに・・・
「・・・どっから見ても立派な恋人同士」
「そこッ！突っこみもいらんっ！」
「・・・わたしは祐一をからかう者だから」
「・・・オイ」
「・・・朝の仕返しがまだ済んでいないから」
・・・・・・実は根に持っているのか？・・・しかもからかう為だけについて来たのか？
佐祐理は、そんな舞のからかいが気にならないのか、ギュッ、と強く抱きしめてきた。
「祐一さん、大きくて暖かくて気持ちいいです。佐祐理、ずっと抱きしめていたいです」
「・・・いや、俺も気持ちは同じだけど・・・このままじゃ歩きにくいぞ」
「時間は一杯ありますからゆっくり行きましょう。」
「・・・ほら・・・みんな見てるし」
美少女が後ろから抱きつきながら登校している。こんな情景はほとんど見られないだろう。
「見せつけちゃいましょう♪」
楽しそうに、嬉しそうに言う。
（・・・変わりましたね、佐祐理さん）
初めて会った時とは比べ物にならないくらいに甘い、とろけるような蜜、ミルクに砂糖を混ぜレモンの汁を一滴垂らした匂い。
惹かれていた。そんな彼女をすべて欲しいと思った。
これが恋。
「・・・佐祐理さん」
「はい、なんですか？」
「・・・キス・・・しよう・・・」
「・・・はい」
二人は目を閉じる。重なり合う唇と唇。
一瞬だけの触れ合いだが・・・とても満足だった。
「佐祐理さん、今日のお弁当は・・・」
「はい、祐一さんだけの特別ですべて佐祐理味です」
「ああ・・・」
これが幸せ、というものなのだろう。
脳内がすべてがピンクの色に染まっていく。
ギャラリーや舞が見ていることなど関係ない。ただ彼女とイチャイチャしたい。望みはそれだけ。
「・・・佐祐理さん」
「・・・祐一さん」
二人はただただ見つめあっていた。
「・・・つまらない」
祐一をからかう事と佐祐理の幸せを見守る事を目的についてきた舞は、一つの目的は叶ったが、もうひとつの目的が駄目になったことに不満そうに先を歩いていった。
おそらく、二人はお互いの事しか見えず、お互いの声しか聞こえていないだろうから。
「・・・相沢君も一日でずいぶんと変わったわね」
顔を引きつらせている香里。おそらく朝の光景を見てしまったのだろう。
「はっはっはっ・・・」
祐一は開き直っていた。
「あそこまで甘くてラブラブな光景を見たのは初めてよ。ラブラブ少女漫画とドラマ好きの栞ですら固まっていたんだから」
そんな香里の目には『妹の教育に悪いから人目のつかないところでしてくれ』と訴えていた。
「はっはっはっはっはっ・・・」
目線をそらした。
はっきり言って、今考えるとものすごく恥ずかしい。
頭を抱えながら地面を3回くらい転げまわっても足りないくらいに恥ずかしい。
恥ずかしいが・・・多分、また同じ事をくり返すのだろうと思っていた。
佐祐理と一緒だと周りのことが目に入らず、聞こえず、感じない状態なのだ。
確かに香里の言うとおり人目のつかないところでイチャイチャすればいいのだが・・・彼女に出会った瞬間、そんな考えは欠片も残らず消えさってしまうだろう。目の前の佐祐理に触りたい、声を聞きたい、髪を撫でたい、幸せそうな笑顔や少し困った表情などが見たい、抱きしめたい、キスしたいなどの考えが脳を占めてしまうからである。
「愛って偉大だよな」
祐一自身、自分がここまで変わるものだとは思っていなかった。先日の昼に佐祐理に腕に抱きつかれた時はものすごく恥ずかしかったのに、今では恥ずかしさより幸せを感じるだろう。
佐祐理とは付き合うとのんびり、ゆったり、ほんわかという感じになると思っていたのだが実際はラブラブの甘々になったのである。
でも、悪くないと思う。幸せなのだから。
ちなみに彼女がどうして、いきなりこんなことをしたのか聞いてみたら、
『・・・本当の気持ちに気づいたから』
『ん？』
『舞と祐一さんは親友だと思っていたんです。でも舞に・・・』
『舞に？』
『舞に言われたんです。自分と祐一さんの好きでは意味が違うって』
『・・・・・・』
『それでも佐祐理はわからなかった。そのことを舞に告げたら』
『ああ』
『祐一さんと久瀬さんがラブラブの恋人同士になったらどう思うって聞かれたんです』
『・・・・・・は？』
『そしたらものすごく嫌な気持ちが心から湧き上がってきて』
『・・・いや、ちょっとマテ』
『いっそうのこと久瀬さんに祐一さんが汚されるなら、佐祐理が汚してしまおうと思ってっ』
『何、さらりと聞き捨てならないことを言ってるんだ、あんたはっ！』
『あ、ちなみにもちろん全部、冗談ですので』
『・・・・・・佐祐理さん、あなた、そういうキャラでしたっけ？』
『ふぇ、祐一さんに似ちゃったんですかねぇ？』
『・・・・・・』
『でも舞に好きの意味が違うって言われたのは本当です。それでその答えを自分自身で知りたくて、朝、祐一さんの家に行ったんです。祐一さんの寝顔を見て、訳もわからず鼓動が激しくなって、胸が切なくて、顔に熱を持って。その瞬間、恋を自覚したんです』
ポスン、と祐一の胸に抱きつく。
『佐祐理、今もドキドキしています』
『ああ、佐祐理さんの鼓動、感じる』
『・・・祐一さんもドキドキしていますね』
『佐祐理さんが抱きついているから』
「祐一さん♪」
「え？」
北川と新作のＣＤの事で話していると自分を呼ばれる声がして祐一は振り返った。
声を聞いた瞬間からわかっていた。今一番愛しい人、佐祐理が目の前にいた。
「あれ、どうしたんだ佐祐理さん。もうすぐホームルームが始まるんじゃ？」
「あははーっ、佐祐理はおっちょこちょいですから忘れ物をしちゃったんです」
「忘れ物？」
「はい、祐一さんに行ってきますのキスをするのを忘れてましたので」
（・・・ああ、そういう事か）
祐一はすべてを納得した。
「ああ、なるほど。佐祐理さんはおっちょこちょいだな。でも俺も忘れてたよ。佐祐理さんに行って来ますのキスをするのを」
「あはは、それじゃあ祐一さんもおっちょこちょいですね」
「はは、そうだな。俺も佐祐理さんと同じでおっちょこちょいだな」
二人で笑った後、見つめあい、顔を近づけてゆく。
「祐一さん、いってらっしゃい」
「行って来ます」
軽く唇と唇が触れ合うだけのキス。
これが佐祐理の分。
そして・・・
「佐祐理さん、いってらっしゃい」
「はい、行って来ます。祐一さん」
もう1回キス。今度も軽く触れあうキス。
最後に・・
「「・・・んっ」」
・・・愛し合うキスをした。
唇を離すと一本の糸が二人をつなぎあわせる橋となる。
「じゃあ祐一さん、またお昼休みに」
「いや、教室まで送るよ」
「はい、ありがとうございます」
腕を組んで教室を出て行く二人。
「お姫様抱っこの方がよかったかな？」
「あははーっ、それもおいしいですけど後の楽しみに取っておきましょう」
残された者たちは石化したように固まるだけだった。
「はぁ、はぁ・・・なんとか遅刻せずにすんだよ」
少し遅れて名雪が教室に入ってくる。
「あ、あれ？何でみんな固まっているのかな？香里、香里〜」
何も知らないのは遅刻寸前の名雪だけだった。
・・・幸運ともいえる。
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