恋人（ともだち）
あゆ…友達でいような。
祐一君…
そうか…決めたんだね
結婚相手はボクではなく…
いとこの名雪さんを選んだんだ。
ボクは大丈夫…
ボクは、祐一君と名雪さんを祝福するよ。
だって、ボクは名雪さんも祐一君も大好きだから…
名雪さんと幸せになってね…
「ふう〜っ…」
あゆは、１つ溜め息をついた。
あるホテルのホ−ルの１席で…
「あゆちゃん、ごめんなさいね。無理に来て貰っちゃって」
席の横に座っていた秋子さんが、心配そうに声をかけた。
「いいんだよ。秋子さんありがとう」
あゆは、笑顔で秋子さんに頭を下げる。
このホテルのホ−ルでは名雪と祐一の結婚式が予定されていた。
あゆは名雪と祐一の結婚式に招待され、このホールに来ていたのだ。
だが、あゆにとってこの結婚式にはどうしても行く気にはなれなかった。
本当は行かないつもりだった。
大好きな祐一と大好きな名雪さんの幸せを壊すと思っていたから…
でも、大好きな名雪の母親である秋子さんから…
「あゆちゃん…お願い！」
と頼まれ…
行くことに決めたのだ。
そして…
「じゃあ、私は名雪のところに行ってるからよろしくね」
秋子さんは、席を立ち、会場の裏に歩いて行った。
秋子さんには、大事な役目があった。
名雪の母親として…
娘と共にウェディングロ−ドを歩く役目を…
「うん…はあ〜っ」
秋子さんがいなくなった後、あゆは再び、俯きながら溜め息をついた。
友達でいような…
祐一君、そんなの無理だよ。
ボクは祐一君が好きだけど…
名雪さんも祐一君が好きだって知ってた。
もし、祐一君と結婚することになったら…
祐一君が好きな名雪さんは不幸になってしまう。
それは、ボクは耐えられない。
だってボクは名雪さんも好きなんだもん…
もし、名雪さんが不幸になるのなら…
ボクも不幸になる。
それほど、ボクは２人が好きだから…
あゆは、祐一のことを想えば想うほど、だんだん表情が暗くなっていった。
「さあ、デジカメデジカメっと…」
そんなあゆとは正反対に真琴は、デシカメを構えてシャッタ−チャンスをうかがっていた。
真琴にとっては、この場には遊びに来たそれ以外は何もなかった。
「いいね…真琴ちゃんは」
あゆは、そんな真琴に声をかける。
「えっ…何で？」
真琴は、あゆに尋ねる。
「だって、楽しそうなんだもん」
あゆは、真琴に声をかける。
「だってこの後も一緒に住むんだもん。何も変わらないじゃない」
真琴はあゆに言った。
真琴ちゃんにとって、名雪さんと祐一君は結婚後も同じ家に住み続ける。
ボクも住む家に…
だから表面上は何も変わらない。
真琴ちゃんにはそう感じるかもしれない。
でも、ボクは祐一君を好きになってしまった。
好きな人と恋人になれずに一緒にいるのは辛い。
何で、祐一君を好きになってしまったんだろう…
祐一君を好きにならなければ…
別にこんなことで悩まなくてよかったのかもしれない。
フッ…
そんな中、ふと電気が消える。
ホール全体が暗闇に包まれる。
パッ…
そして、前面の１ヶ所に明かりが灯る。
そこには、１人の男性が立っていた。
男性は、北川潤。
祐一の親友である。
名雪とも友人ということで、今回の結婚式の司会を任されたという訳なのだ。
「皆さん、ようこそいらっしゃいました。２人の幸せを見守って頂きたいと思います」
笑顔で、マイクを持って話を始めた。
ホ−ル内の席は、多くの人で人の熱気で一杯になっていた。
名雪、祐一の友人ということで、沢山の友人が招待され、集まったという訳なのだ。
これだけの人間が結婚式に集まるということで、２人の人望の厚さを示していた。
7年間眠り続けていたあゆには、こんなに人望を集めることはできなかった。
「はあ〜っ」
あゆは、このことにもまた溜め息をつく。
もし、ボクと祐一君が結婚することになっても…
ボクには、友人がいないから…
寂しい結婚式になっていたのだろう。
そういう意味では、沢山の友人がいる名雪さんを選んだのは正解かもしれない。
２人だからこそこんなに賑やかな結婚式を迎えられたのだから。
「さあ、新郎新婦の入場です！ 盛大な拍手でお迎え下さい！」
北川の声と共に、スポットライトはふとあるドアに当たる。
そして、そのドアが開かれ。
その敷かれているじゅうたんの上に祐一と名雪が入ってきた。
タキシ−ドを着た祐一と…
ウェディングドレスを着た名雪が…
２人ともこの日の為に、服装、化粧を施してきたのだ。
誰もが、見とれるほど格好良さと、美しさだった。
パチパチパチ…
会場は２人を祝福するように盛大な拍手が送られた。
２人はそんな会場の雰囲気を感じながら一歩一歩踏み締めるように歩いていった。
ドアの先から続く、赤いじゅうたんを…
幸せのウエディングロ−ドを…
（綺麗だな…）
あゆも２人の余りの美しさに見とれていた。
真っ白なウェディングドレス…
プロによるメイク…
誰もが美しいと認めるプロポ−ション。
祐一君もきちんとタキシ−ドできめている。
ボクも今日の為に新着の服を新調した。
化粧も秋子さんにお願いした。
でも、今日の名雪さんにはかなわない。
こんなボクが祐一君と結婚したかったなんて…
恥ずかしくて言えない。
丁度、名雪と祐一があゆの前に通りかかるが、あゆは直視することはできなかった。
自分が余りにも惨めに思えてきたから…
そして、式は順調に進められる。
「え−っ…私は、祐一との親友でして…」
北川の挨拶代わりの思い出話から始まり…
学校の恩師…
部活の友人…
大学の知り合い…
と様々な方が２人の思い出話を交えて挨拶を行った。
その言葉は本当に心から２人を祝福する為に集まったというのが伝わってくる言葉だった。
暖かく…
胸に届く…
優しい言葉だった。
それだけ、祐一と名雪は周りへの気遣いを忘れなかった表れだろう。
礼儀正しく…
優しく…
親身に接していたからこそこの様な言葉が贈られたに違いない。
そんな挨拶だった。
「え〜…ごほん！ それでは…」
そして、２人の前に神父が立ち…
「汝等は、苦しい時も病む時も…愛を貫くことを誓いますか？」
誓いの言葉が読み上げられた。
「はいっ！ 誓います！」
２人ははっきりと答えた。
「それでは、誓いの口付けを…」
神父がそう問いかけると共に…
２人は口付けを交わす。
２人は嬉しそうな表情を浮かべながら…
まさに幸せとはこの様なものだと言わんばかりの表情を浮かべていた。
（やっぱり祐一君には名雪さんなんだね…）
２人の様子を見つめながら、あゆも２人の幸せを感じていた。
幸せそうな２人…
そんな２人と一緒にボクがいたら、２人の幸せを壊してしまう。
やっぱりボクはそばにいるべきじゃないんだ。
この家を出よう。
それなら傷つくのはボクだけ…
２人の幸せを壊すことはない…
そして…
「えっと、続きまして…えっ！」
北川は、突然、声を詰まらせた。
ざわざわ…
声を詰まらせた北川の様子に場内にいた客がざわめく…
(いいのか？)
北川はふと祐一と名雪を不安そうな目で見つめる。
こくり…
祐一と名雪は、そんな北川に笑顔で大きく首を振った。
「も…もう１人の新婦の入場です！」
北川は手に持っていたプログラムの言葉をそのまま読み上げた。
フッ…
辺りは一旦電気が消されて暗くなり…
カッ…
１ヶ所にスポットライトが当たった。
そのスポットライトはあゆの場所に向けられた。
「えっ！」
突然、スポットライトの当てられたあゆは、驚きの余り声を上げた。
「さあ、行くよ！」
真琴があゆの近くに歩み寄り、手を差し出した。
「あっ…うん」
あゆは、ゆっくりと立ち上がり、真琴と共に歩み始めた。
ウェディングロ−ドの上を一歩ずつゆっくりと…
パチパチパチ…
ウェディングロ−ドの先にはそんなあゆを待ち受けるかのように、祐一と名雪が笑顔を浮
かべ拍手をしていた。
パチパチパチ…
それにつられたのか、会場全体からも一斉にあゆに拍手が贈られた。
(嬉しいよ…)
あゆはウェディングロ−ドを歩きながら幸せを感じていた。
２人の感じた幸せを今度はあゆが感じてる。
まさにこの世の幸せを一杯に浴びてあゆは歩いていた。
そして、あゆは祐一と名雪の前に立った。
「ありがとう！ 真琴！ 作戦成功だぞ！」
祐一は笑顔で真琴の頭を撫でる。
「へへ〜っ、『作戦Ｘ』無事成功！ やったね」
真琴は、嬉しそうに笑顔を浮かべる。
「祐一君こ、これは…？」
あゆは呆然とした表情で祐一に尋ねる。
「ごめんな…あゆ。びっくりさせてしまって…俺、あゆとも結婚したかったからさ…」
祐一はあゆに優しく声をかける。
「でも、今日は名雪さんとの結婚式だよ。こんなのまずいよ」
あゆは、困惑しながら、祐一を見つめる。
「あゆ…俺のこと好きか？」
祐一は優しくあゆに尋ねる。
「うん、好きだよ。大好きだよ」
あゆはそう言って首を１つ振る。
「俺もあゆのことが好きだ。でも名雪も好きなんだ」
祐一は、あゆの目を見ながら声をかける。
「でも、ボク…名雪さんのことも好きだから…名雪さんに悪いと思って…」
あゆは、俯きながら言う。
「あゆちゃん…私も祐一が好きだけどあゆちゃんのことも好きだよ」
ふと名雪が横からあゆに声をかける。
「そう…俺は名雪とあゆが好き。名雪は俺とあゆが好き。あゆは名雪と俺が好き。だから、
俺は名雪ともあゆとも結婚する。それでいいじゃないか！」
祐一はあゆに優しく語りかける。
(祐一君…)
あゆは涙を流しながら顔をあげる。
「好きな者だから結婚する。それは自然なことじゃないか。ねえ、秋子さん！」
祐一はふと横にいた秋子に声をかける。
「了承」
秋子はすぐに笑顔で言った。
いつもの１秒後…
「はい…あゆちゃん」
名雪は自分の頭に乗っているベ−ルを外し、あゆの頭に乗せた。
「ぐずっ…名雪さん…」
あゆは、涙を流しながら名雪を見る。
「綺麗だよ…あゆちゃん」
ベ−ルを頭に乗せた後、名雪はあゆに声をかける。
「ありがとう…名雪さん」
あゆは、笑顔で名雪に声を返した。
「ごほん…私は何をすればいいのかね…」
待ちぼうけを食っていた神父は声をかける。
「あっ…ごめんなさい」
「ごめんなさい」
今度は、あゆと祐一が神父の前に立った。
「え−っと…ゴホン！ 汝等は病む時も苦しい時…愛を貫くことを誓いますか？」
神父は、誓い言葉を２人に投げかける。
「はいっ、誓います！」
「誓います！」
２人は返事をする。
「それでは、近いの口付けをお願いします」
そして、神父が声をかけると…
(祐一君…)
(あゆ…)
２人は口付けを交わした。
幸せそうに…
「おめでとう…あゆちゃん」
名雪はそんな２人を幸せそうに見つめていた。
パチパチパチパチ…
その時、ざわめきの起こっていた場内から割れんばかりの拍手が起こった。
世間的には疑問が残る結婚式だが…
その疑問を打ち消すほどの…
３人の幸せそうな笑顔があった。
幸せならそれでいいじゃないか…
場内には、そんな雰囲気が漂っていた。
そして、式はその後、何事もなく終了し…
最後には、高台の上で３人はライスシャワ−を受けながら周りから祝福を受けていた。
「さあ、あゆ…投げな！」
祐一はその中でブ−ケをあゆに渡す。
「えっ…いいの。こんな大事な役目をボクが…」
あゆは困惑しながらブ−ケを受けとる。
「いいんだよ。私、ウェディングドレスが着れたから…十分だよ」
名雪はあゆに笑顔で言う。
「よ−し、行くよ…えいっ！」
あゆは、ブ−ケを持ち、高台から下に投げ入れた。
ボクは凄く幸せだよ。
祐一君と名雪さんのお蔭で…
ボクそんな２人と友達でいたい。
本当の友達に…
本当に好きと言える関係に…
それならボクも祐一君も名雪さんも幸せでいられる…
神様お願いします。
この幸せの時間を終わらせないで…
いつまでも永遠に…
〜終わり〜
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