絆〜三人の幸せ〜
いつもと変わらないまだ少し寒い日。
俺は待ち合わせ場所に向かって走っている。
俺を待っている二人の下へ。
「やべぇ〜。このままだと約束の時間に間に合わねぇ。」
俺は愚痴をこぼしながら走っていた。
「名雪がもっと早く起きてくれれば、走らなくても全然余裕だったのに。今日ぐらいはあゆか真琴が変わってくれてもいいだろ普通。」
俺が名雪を起こしているのはいつものことである。
本来、春休みの今名雪が朝起きる理由はないはずなんだが、今日は部活があるらしく学校へ行かなければならないらしい。
だが、寝雪や眠り姫の異名は伊達じゃなく、名雪が一人で起きられるわけもない。
つまり誰かが名雪を起こしてやらなければなかった。
俺は今日、今年卒業した先輩達と出かけるつもりだったので、あゆか真琴に名雪を起こして貰おうと思っていたんだが、あゆはタイヤキを買いに真琴は美汐の家に遊びに行ったので家にはすでにいなかった。
秋子さんに頼むという手も普段は使えるのだが、あいにくと秋子さんは最近仕事が忙しく朝早くから仕事に行くため、秋子さんもすでに家にいなかった。
仕方なく俺が名雪を起こすことになったんだが、名雪を起こすのに時間がかかってしまい、二人との待ち合わせの時間に遅れそうになっていた。
俺が待ち合わせ場所に着いたとき二人はもうすでに待ち合わせ場所にいた。
一人が俺に気が付いて声をかけてきた。
「あ、祐一さんだ。」
「おう、祐一さんだぞ。」
「・・・祐一、遅い。」
「遅れてごめんな。」
俺と待ち合わせをしていたのは、舞と佐祐理さんだ。
二人は高校のときからの大親友で、今は二人で一緒に住んでいて同じ大学に通っている。
俺が高校を卒業したら三人で一緒に暮らそうと約束している。
このことを名雪たちに話したときは大変だった。
俺の両親と秋子さんはいつものように一秒で了承してくれたのだが、名雪・あゆ・真琴の水瀬家三姉妹の説得には時間がかかった。
結局は、三人にそれぞれの好物であるイチゴサンデー・タイヤキ・肉まんを奢ることで妥協した。
途中から、何故か栞にもアイスをおごることになってしまった。
四人におごった合計金額については・・・聞かないでくれ。
そして、受験生である俺は、二人と同じ大学に行こうと猛勉強中である。
今日は、佐祐理さんが最近出来た遊園地のチケットが手に入ったので三人で行こうというのである。
「佐祐理さん今日も取っても綺麗だよ。」
「あはは〜。お世辞なんか言っても何も出ませんよ祐一さん。佐祐理より綺麗な女の子なんてたくさんいますよ。」
「祐「お世辞なんかじゃないよ。佐祐理さんは本当に綺麗だよ。」
ポカ
舞が俺にチョップをやり始めた。
しかし、そんなことで引き下がる俺ではなかった。
「佐祐理さんをお嫁さんにもらえる奴は本当に幸せだろうな。」
ポカポカポカポカ
舞がチョップを何度もやってくる。
「祐一さんのお嫁さんは駄目ですか？」
「そりゃあもうい「祐一、調子に乗るな。」
「ゴメンナサイマイサマ。オネガイデスカラソノクビニアテテイルモノヲドケテモラエマセンデショウカ？」
俺の首には、魔物と戦っていた時の剣が当てられていた。
どうして捨てたはずのその剣をなんで持っているのかとか、その剣をいったいどこから出したのかなどいろいろとツッコミを入れたかったのだが、この状況ではさすがの俺も舞に逆らう事は出来なかった。
「あはは〜。祐一さんさっきの質問の答えは言ったどうなんですか？」
「佐祐理。」
舞が佐祐理さんを睨みつけた。
「あはは〜。冗談だよ舞、そろそろ祐一さん許してあげたら。」
「祐一。反省した？」
「ハンセイシマシタカラユルシテクダサイ。」
「・・・分かった。」
舞はまだいまいち納得してなかったが、俺はやっと舞から解放された。
「ちょっとやりすぎちゃったかな。」
「佐祐理はさっきの答えが気になります。」
佐祐理さんの呟きを俺は偶然にも聞いてしまった。
「えっ、ちょっと佐祐理さん？」
「あはは〜。それじゃあ、行こうか舞、祐一さん。」
「はちみつくまさん。」
「佐祐理さんってば。」
俺は疑問を抱えたまま三人は、遊園地に向かった。
「遊園地なんて久しぶりだ。」
「そうですね。佐祐理も久しぶりです。」
「・・・私は初めて。」
「えっ。舞って遊園地来たことなかったのか。」
「今までそんな暇なかったから。」
俺は自分が言ったことを後悔した。
舞は俺についた小さな嘘守るために、十年間も自分の力と戦っていたんだから。
普通の子供なら誰だってやっていることも舞はやったことがなかったのだから。
「ごめんな、舞。」
「ぽんぽこたぬきさん。祐一が謝る必要なんてない。祐一はちゃんと帰ってきてくれた。だからもう昔のことはいい。」
「ありがとな。」
「あはは〜。それじゃあ舞の初めての遊園地を三人で楽しみましょう。」
「そうだな。行こうか。」
「はちみつくまさん。」
「はい。」
「それじゃあ、二人とも何か乗りたいのってある？」
「佐祐理は、何でもかまいませんよ。」
「舞は何か乗りたいものってないか？」
「・・・祐一。あれ乗ってみたい。」
俺は舞の指差した方を見てみると。
「コーヒーカップか。」
「あれにしましょう。祐一さん。」
「そうだな。あれに乗ろうか。」
「はちみつくまさん。」
「あはは〜。それじゃあさっそく乗りましょう。」
俺達はコーヒーカップに乗った。
「それじゃあ俺が回すぞ。」
「お願いしますね。祐一さん。」
「回す？」
遊園地に始めてきた舞にはコーヒーカップがどういうものか知らなかった。
「どりゃー。」
俺は思いっきりコーヒーカップを回した。
さて、俺の努力の結果は？
「二人とも面白かったか？」
「あはは〜。面白かったね、舞。」
「目が回った。」
「そ、そうか。」
「祐一さん大丈夫ですか？」
「ちょっと疲れたかな？」
「・・・はりきりすぎ。」
舞が厳しい指摘に俺はちょっと傷ついた。
俺は、話題を別の方に変えることにした。
「次はどれに乗る？」
「あ、舞あれなんかどうかな？」
「かわいい。」
「か、かわいいってまさかあれに乗るんですか！」
あ〜やっぱりあれですか。
まあ遊園地でかわいいっていたらあれぐらいしか思いつかないけど。
だけど佐祐理さん。
どうしてメリーゴーラーンドなんですか？
あれに乗ったら俺恥ずかしさの余り顔から火が出ちゃいますよ、ほんとに。
「ほ、本当にあれに乗るんですか。」
「駄目ですか？」
佐祐理さん。あなた絶対分かってるですよね。
そんな目で見つめられて断れる男なんていないって。
それにもし断ろうとしたって
「佐祐理を悲しませたら許さない。」
「ソンナダメナワケナイジャナイデスカ。デスカラマイサマソノワタクシメノクビニアテラレテイルモノヲドケテクレマセンデショウカ。」
俺の首には舞の剣が当てられていた。
こうなるって絶対分かってやってるんですよね。
「・・・そう。ならいい。」
「あはは〜。それじゃあ早く乗りましょう 。」
「はちみつくまさん。」
「分かりました。それじゃあ乗りますか、お姫様方。」
「はぇ〜。佐祐理と舞がお姫様ですか。だったら、祐一さんは王子様ですね。」
「佐祐理、祐一早く行く。」
「あ、舞そんなに急ぐなって。」
「待ってよ。舞〜。」
俺はもうすでにやけくそになっていた。
「あはは〜。楽しかったね舞。」
「はちみつくまさん。」
舞もこういうのが好きなようだ。
二人とも恥ずかしくないんだろうか？
俺はただ恥ずかしいって気持ちでいっぱいだったが
「祐一さんはどうでしたか？」
「知り合いに見られてなくてよかった。」
「ふぇ？」
もしここに知り合いがいたら大変だっただろうな。
名雪だったら最悪だ。
俺が転校して来たときに、一緒に住んでいることを思いっきりばらした名雪だ。
このことも知ったらすぐにばらしてしまうだろう。
そんなことになったらきっと俺は旅に出ちゃうよ。
「祐一さん？」
「は、はい何でしょうか？佐祐理さん？」
一人悩んでいた俺は、当然声をかけてきた佐祐理さんに驚いた。
だが、それ以上に少し涙目になっていた佐祐理さんに驚いた。
「佐祐理さん、ちょっとどうしたんですかそんな泣きそうな顔して。」
「だって祐一さん旅に出るって。」
「ぐしゅぐしゅ。祐一、また私を捨てるの？」
俺は佐祐理さんだけでなく、舞も泣きそうになっていることに驚いた
「ふ、二人とも落ち着いて。俺が二人をおいて旅に出るわけなんてないだろ。」
「本当ですか？」
「祐一本当？」
「だ〜か〜ら、旅になんて出ないって。大体なんで俺が旅に行くなんて話になったんだ？」
「・・・だって、祐一がこのこと誰かに知られたら旅に出るって。」
「ぐはぁ。俺ってどの辺りからしゃべってた？」
「え〜と確か、「もしここに知り合いがいたら〜」辺りからしゃべってました。」
それって最初からじゃん。
いい加減直らないかなこの癖。
「それはここに俺の知り合いがいたらの話だ。」
「・・・祐一。」
「なんだ舞？」
「ここに祐一の知り合いがいたら祐一は旅に出るの？」
「旅に出るってのはただのたとえ話だ。それに俺は絶対に二人のそばを離れない。」
「祐一さん。」
「祐一。」
そう言って二人が俺に抱きついてきた。
ああ、周りの視線が痛い。
「そういえば舞、どうして俺の知り合いがいたら俺が旅に出るかなんて聞いたんだ？」
「・・・それは「公衆の面前で抱きつくなんて恥ずかしくないのかしら。」
「「俺は絶対に二人のそばを離れないか。」・・・すげえなこりゃ。愛の告白だ。しかも二股。」
ああ。冷や汗がいやってほど出てるのが分かる。何でこいつらがここにいるんだ！
「恐る恐る振り返ってみると、そこにはアンテナと拳の女王がいた。」
「いい度胸ね相沢君。誰が拳の女王だって？」
「誰がアンテナだ！」
しまった。また言ってしまったのか！
アンテナの方はどうでもいいとして、香里。メリケンサックをはめた状態で聞かないで下さい。
「ごめんなさい、香里様。」
「言い直すくらいなら、はじめからそんなこと言わなきゃいいのに。」
「相沢！俺の方も訂正しろ！」
「えっ、お前ってアンテナだろ？。」
「違うわ。北川だ。北川潤だ。」
「分かったよ。アンテナ。」
「あくまで無視するか。まったく、今の自分の状態が分かっていないようだなお前は。」
わ、忘れてた。
く、どうやってさっきの事を口止めするか？
「さて、それじゃあ俺はさっそく見たことを一部始終水瀬さん達に教えようかな？」
そういって北川は、おもむろに携帯を取り出した。
「ま、待て北川早まるな。ちょっとこっち来い北川。」
「なんだよ相沢。」
俺は北川を連れて、三人から少し距離をとった。
どっちをばらすつもりなんだこいつは。
メリーゴーランドに乗ったことをばらされたらきっとみんなから馬鹿にされる。
特に真琴から。
いや、それはまだましな方かもしれない。
もし二人と抱きついてたことをばらされたら・・・
「祐一、私もう笑えないよ。」
「僕のこと忘れてください！」
「春が来て・・・ずっと春だったらいいのに・・・」
「奇跡って起こらないから奇跡って言うんですよ。」
とか言いながら、きっと俺から散々自分の好物を集って俺の財布の中を空にしてしまうだろう。
この事態だけは回避しなければ。
「まあ聞けって。今度香里とお前が付き合えるよう今度何か手伝ってやるから。」
「何言ってるんだ相沢？俺と美坂もう付き合ってるぞ。」
「？・・・！！！何冗談言ってるんだよ北川。ついに壊れたか？」
「ほんとだって。俺もだめもとだったんだが、告白してみたらO.K.してくれてびっくりしたよ。」
「じょ、冗談だろ・・・。」
「ほんとだって言ってるだろ。だから二人でここに来てるんだし、何なら証拠を見せてやろう。お〜い美坂。俺たちって付き合ってるよな。」
何時の間にか佐祐理さんと舞と話していた香里が顔を真っ赤にしてこっちを向き。
「ちょっと潤。そういうこと大声で言わないでよ。恥ずかしいでしょ。」
潤？ジュンッテイイマシタカカオリサン。
イッタイアナタニナニガアッタンデスカ。
「な、言ったとおりだったろ。」
馬鹿な。あの香里が北川と付き合っているなんて・・・。
は！そういえば前に名雪のやつが
「北川君と香里が付き合い始めたんだよ〜。だから私たちも愛を育もうよ〜。」
とか言って襲ってきたことがあったが、あれってただの口実じゃなくって事実だったんだ・・・。
く、北川のくせに。
「なんか今変なこと考えなかったかお前。」
「いえいえ。めっそうもございません。」
ち、勘の良い奴め。
「とりあえずこのことはお前の弱みとして今は秘密にしておいてやろう。しかし、お前はすごいな。こっちに着て僅か数ヶ月であの二人を落とすとは。あの二人かなり競争率高かったんだぞ。」
あの二人の競争率が高いのは、そりゃ当然だろう。
才色兼備の佐祐理さんに、問題児扱いされていたがグラビアアイドル顔負けのスタイルの舞だ、競争率も高くなるだろう。
「そうか。そろそろ俺達は別のところに行きますか。お〜い。香里そろそろ飯食いに行こうぜ。」
「え、ちょっと潤待ってよ。倉田先輩、川澄先輩失礼します。」
「あはは〜。香里さん、さようなら〜。」
「・・・香里、さよなら。」
香里は北川の方に走っていった。
「香里って変わったなぁ。」
俺の脳は、いまだ北川と香里が付き合っているという事実をちゃんと把握できずに、エラーが大量発生していた。
そういえば、北川のやつが飯を食いにいくとかいってたな。
「佐祐理さん、俺達もそろそろお昼にしない？」
「そうですね。それじゃあ何か買いにいきましょうか。」
「違うよ佐祐理さん。俺が食べるのは佐祐理さんだ〜。」
「きゃ〜♪」
俺は咄嗟に 佐祐理さんに抱きついた。
佐祐理さんもこの状況を楽しんでいるようだ。
「・・・祐一、佐祐理から離れろ。」
舞が何か言っているがとりあえず俺が取る行動は・・・無視だ。
「まずは、その唇を食べちゃおうかな。」
俺の唇が、佐祐理さんの唇に近づいていった。
佐祐理さんの唇まで後、10センチ・・・・5センチ・・・・・
俺の唇と佐祐理さんの唇が重なろうとしたその時
ゴン!!
舞のチョップによって俺は地面とキスしていた。
「はぇ〜。」
佐祐理さんは呆然としていた。
「なにするん・・・・だ・・よまいさん？」
俺は舞に文句を言いたかったが言えなかった。
舞がどす黒いオーラを出しながらものすごい顔で俺を見ていた。
どのぐらいすごいかというと、小さい子供が見たら、きっと一生消えない心の傷になるんじゃないかって思うぐらいである。
「祐一。」
「ハ、ハイ。何でしょうか舞様？」
「朝にいったい何があったか覚えてる？」
「え〜っと。朝って言ったら・・・あ、あはは。」
俺は朝のことを思い出して苦笑いしている。
舞の方はというと、こりゃまたいったいどこから出したのか手には剣が握られていた。
「反省したんじゃなかったの？」
俺は今真剣にこの状況を打破する方法を考えていた。
「祐一、最後に何か言い残したいことはある？一応は聞いてあげる。」
剣を振り上げて舞は言った。
俺は今しかない思って切り札を使った。
「舞、今度牛丼おごるからそれで許してくれ。」
「・・・大盛り、玉で。」
「分かった。分かったからその剣を早くしまってくれ。」
俺は身の安全を確保してホッとしていた。
「・・・祐一。」
「なんだ舞？」
「・・・仏の顔も三度まで。」
舞は俺にこう言って佐祐理さんの方へ行った。
おそらくこの次はもうないって意味だろう。
「佐祐理。お腹空いた。」
「あはは〜。舞、それじゃあ何か、買いに行きましょう。」
俺達が何か買いにいこうとしたとき、俺はふと疑問に思ったことを口にした。
「そういえば二人とも。さっき香里と何話してたんだ？」
「・・・そ、それは・・・。」
舞が顔を真っ赤にしながら口籠った。
「あはは〜。女の子同士の秘密ですよ。」
「秘密ってな「倉田さん。早く目を覚ましてください。」
「はぁ〜。まったくいきなり出て来て何言ってんだか。」
女の子の秘密が何なのかを聞こうとしたら、突然さっきとは別の台風がやってきた。
倉田佐祐理ストーカーもとい元生徒会長久瀬が現れた。
こいつのいた元生徒会は、俺と佐祐理さんが退学処分を受けた舞を復学させようと全校生徒から署名を集めた後に、反生徒会によって 佐祐理さんを強引に生徒会に引き入れようとしたことの他、過去のさまざまな悪事が公表されリコールされたのだ。
まあその後いろいろあって、俺が生徒会長になってたりする。
ついでに言うと香里が副会長で、美汐が書記になり、名雪・あゆ・真琴・栞・北川もよく生徒会の仕事を手伝ってくれたりする。
今の生徒会の実態って全員俺の知り合いなんだよな。
これって少し問題があるような。
まあ、それは置いといて、
「で、元生徒会長様が一人で遊園地に何しに来たんですか？」
皮肉交じりに元生徒会長を強調して言ってやる。
「黙れ相沢！倉田さん。あなたは僕のような上流階級の者にこそ相応しい。」
「はぁ〜。まったくしつこいな。何度も言うけど佐祐理さんはお前の物じゃないんだから。」
「・・・祐一。こんなやつと話しても無駄。斬る。」
「まあ待て舞。」
「・・・何祐一？」
いつもならここで実力行使で何も問題ないんだが、
「舞ちょっと待て。ここは遊園地だ。さすがに騒ぎは起こしたくない。ということでだ二人とも、ちょっと耳を貸してくれ。ごにょごにょごにょ。」
俺は咄嗟に思いついたことを二人に話した。
「あはは〜。それいいですね。」
「はちみつくまさん。」
「何を話してるんだ。っておいどこに行く。」
俺達が取った行動は戦略的後退だ。
逃げ出したとも言うが。
決着は簡単についた。
まあ、当然のことだろう。
十年間も魔物と戦い続けた舞、運動神経のいい佐祐理さん、陸上部部長の名雪と毎朝学校までのフルマラソンをしている俺。
俺達三人に体力の無い久瀬が何時までもついてこれるはずもなく、いつの間にかいなくなっていた。
「逃げ切ったか。」
俺が勝利の余韻に浸っているまもなく舞がいつになく真剣な眼差しで話しかけてきた。
「・・・祐一。」
「どうした舞？」
「・・・お腹すいた。」
「っておい。それかよ。」
「あはは〜。久瀬さんもいなくなったことだしお昼にしましょう。」
「まあそうだな。」
久瀬とは結局あの後会うことはなかった。
その後俺達は、お化け屋敷やジェットコースターなどいろいろ乗った。
魔物と戦っていた舞がお化けに怖がったり、佐祐理さんが絶叫マシーンが好きだっていう二人の意外な一面を俺は知ることが出来た。
辺りがだんだん暗くなってゆき、楽しい時間が早く過ぎるってのは何でだろうか？
俺はそんなことを考えていた。
「いっぱい遊んだから結構暗くなってきたな。二人ともそろそろ帰ろうかと思うんだけど、最後に何か乗りたいのってあるか？」
「佐祐理はありませんけど、舞は何か乗りたいのある？」
「・・・あれ乗りたい。」
舞が指さした方を見ると
「観覧車か。そう言えば乗ってなかったな。最後に観覧車に乗るか。」
「そうしましょう。」
「はちみつくまさん。」
観覧車から見える外の景色は絶景だった。
「・・・綺麗。」
「本当に綺麗ですね。」
「そうだな。」
観覧車から夜空を見ていると流れ星が一つ流れた。
「あ、流れ星。」
「消えちゃいましたね。」
「二人とも願い事は何てお願いした？」
「・・・佐祐理や祐一とずっと一緒にいられますようにってお願いした。」
舞が恥ずかしそうにいった。
「あはは〜。佐祐理も舞と同じですよ。佐祐理と舞と祐一さんがずっと幸せにいられますようにって。」
佐祐理さんも舞も同じようなことをお願いした。
「祐一さんは何てお願いしたんですか？」
「ん？俺か？俺は舞と佐祐理さんがずっと笑顔でいられますようにってな。」
そう。これが俺たち三人の願い。
三人の絆がいつまでも続くように。
そして、こんな幸せがいつまでも続くようにと俺達は願い続ける。
永遠に・・・
Ｆｉｎ
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