世界にひとつの私の名前
「朝、朝だよ〜」
いつもの目覚ましで祐一は目を覚ました。
今日はやけに寒いからか、それとも今日が特別な日だからだろうか。
妙に心の中がすっきりした感じだった。
「まあいいか…」
そうぼやきながら学校に行く準備をしていた。
そうして一日が始まる…
一年前の今日
永遠の愛を…
誓った思い出の日
キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜ン
授業終了のチャイムと同時に祐一は教室を出て行った。
そして二年生の一番奥の教室へ向かった。
そこには帰り支度をしている女子生徒の姿があった。
「お〜い、天野」
「相沢さん」
美汐は呼ばれると教室を出て祐一のほうに向かった。
二人は校門をくぐると商店街を歩いていた。
「相沢さんも変わりませんね」
「そう言う天野はますますオバサンくさいな」
「それってどう意味ですか」
「言葉どうりだ」
「だから物腰が上品なだけです」
美汐がすねた様な感じで足取りを速めた。
「相沢さんももうすぐ卒業ですね」
「ああ…、早いよな」
「進路はどうされるんですか？」
「おれの進路か？」
「はい」
祐一は照れくさそうにしながらも自分の夢を話した。
「おれは…獣医の学校に行くつもりなんだ」
そう言うと美汐は微笑んだ。
「何で笑うんだよ」
「いや…なんか相沢さんらしいと思って」
「まあ、いいけどな」
「それはそうと相沢さん」
「何だ？」
「どうして今日は私を誘ったんですか？」
「結婚一周年なんだよ俺とあいつの」
「そうだったんですか」
「だから天野も一緒にどうかと思ってさ」
しばらく美汐は考えると。
「やっぱり遠慮しときます」
「何でだよ？いいじゃないか」
「お二人の邪魔をするのは野暮と言うものでしょう」
「そういう発想がオバサンだと思うが…」
「人が気を使っているのにそんな事言わないでください」
そうい言って祐一は美汐と別れるとコンビニで肉まんを買うと本当の目的地に向かった。
ここは「ものみの丘」
かつて彼女と出会い
永遠の愛を誓った場所
そして彼女と別れた場所
「よぉ、真琴」
祐一は誰もいない丘に呼びかけるように話した。
「今日は俺とお前の結婚一周年なんだぞ」
「ほら、お前の好きな肉まんもあるしマンガだってもってきたんだぜ」
祐一は肉まんを地面に置くと少女漫画を開いて読み出した。
「恋はいつだって唐突だ」
朗読をしながらずっと祐一は考えていた
七年前ある狐を助けた事から
奇跡の物語は始まっていた
あの時「やさしさ」をあげたから
あの時「かなしみ」をあげたから
あいつは俺の前に現れた
あの七年前のことは正しかったとは限らない
だけど俺は言えるぜ、真琴
たとえどんなことがあっても
俺はお前がずっと好きだって
祐一は少女マンガを朗読しているうちに
眠気がやってきた。
このまま睡魔に身をゆだねるのも悪くないとおもいながら祐一は目を閉じた
そして夢の中で懐かしい声がきこえてくる。
感じる
ここにいる
あの人がここにいる
大好きなあの人が
七年前私を助けてくれた人
そして私を置いていった人
わたしに「人と別れる悲しみ」を与えた人
だけど「人を愛するやさしさ」をくれた人
私が初めて好きになった人
きっとまた会えるよね
もう一度会えるよね
もし今度会ったときは
私の名前を考えて
沢渡真琴は素敵な名前
だけどこの名前は
あなたが憧れていた女の子の名前
だから今度は
私だけの名前を
世界にひとつだけの私だけの名前を
考えて
少女漫画のヒロインみたいに
まってるからね
約束だよ
「ああ、約束だ」
そう答えるのと同時に祐一は目を覚ました。
時計を見てみると日付が一日変わっている。
どんなことを言われたか定かではないが
あれは確かに彼女の声だった。
久しぶりに聞いた彼女の声。
たまたま見た夢なのか、奇跡の延長なのかわからない…
だが自分の中にまだ彼女が残っているのがわかった。
それだけで十分だ。
「またな」
そういうと祐一は走って丘を下っていった。
そして走り去った後
二人の未来への祝福なのか
春を好きだった少女の想いからか
誰もいない丘に
季節外れの桜の花びらが一枚
風を受けて舞っていった。
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