写真のわたしと今の


写真




写真を見ている




机の片隅で色あせてしまった７年前の写真




小学生の男の子と三つ編み女の子が雪に覆われた原っぱを走り回っている写真


滑り台もブランコもないただの空き地
雪合戦でもソリ遊びでもないただ走り回っている


男の子は笑っている
女の子も笑っている
笑いながら楽しそうに走り回っている




恥ずかしがり屋の男の子の一番新しい写真


いじわるで寒がり
けど本当はやさしい男の子



わたしはその男の子が好きだった



わたしは毎年その男の子が来る冬を待っていた


男の子といると楽しかった
男の子といるとうれしかった
男の子といると胸がいっぱいになった







それが恋ということを知ったのは７年前


想いという流れが止まってしまった７年前












男の子は毎日楽しそうに出かけていった

わたしはそれがいやだった

ある日、男の子が泣いていた

理由はわからない

でも元気になってほしいと思った




わたしはずっと考えた
一生懸命考えた
そして気づいた

好きだということを

恋をしているということを


告白せずにはいられなかった












つぶされた雪うさぎ



届かなかった想い



果たされなかった約束














わたしはふられた















男の子は来なくなった

でも・・・・・・・

わたしは男の子を待っていた



ずっと待っていた



ひたすら待っていた・・・・・・・




学校が始まるまで毎日ベンチで待っていた
学校が始まってからは放課後にベンチに行った

ひたすら待っていた

待っている間にいつの間にかわたしの心を焦がしていた炎は消えてしまっていた
わたしの想いは止まってしまっていた
わたしの心は凍りついてしまっていた




もう待っている理由はない




でも、待っていた









ずっと待っていた








ずっと・・・・・・・・




















中学校に入って陸上を始めた
好きな事ができた

香里に会った
親友もできた



新しい日常


楽しい毎日






わたしはベンチに行かなくなっていた・・・・・




わたしはベンチから離れるようになっていた・・・・・・・


















男の子が７年ぶりに帰ってきた



変わった日常


男の子といると楽しい
男の子といるとうれしい
男の子といると胸がいっぱいになる


待ち遠しくなった毎日



でも・・・・・・・





わたしの火は消えたまま・・・・・・





わたしの想いは止まったまま・・・・・・・・





わたしの心は凍りついたまま・・・・・・・

























ぼふっ
写真を持ったままベッドにあお向けに倒れこむ
「祐一、わたしのこと好きって言ってくれたんだよね」
いきなり言われてどうしていいのかわからなくて、わたしは逃げてきた
「わたしは祐一のことが好き・・・・・なのかな？」
祐一といると楽しい
祐一といるとうれしい
祐一といると胸がいっぱいになる
昔と変わらない
でも・・・・・・
「・・・・・・・わからないよ」
あの時ははっきりと恋だと思った
あの時ははっきりと「好き」と言えた
今は違う
よくわからない
７年前にわかっていたことが今はわからない・・・・・・・
「わたし、変わっちゃってたんだ。祐一は変わらないのにね」
この写真のころから変わっていないと思う
わたしの知っている祐一と同じ
何も変わっていない
わたしの好きだった祐一のまま・・・・・・・


「・・・・・好きなのかな？」
写真を脇に置きケロピーを抱きしめる
わたしの小さいころからの話し相手
ふさふさなかえるさんのぬいぐるみ
「ケロピー、わたしね、祐一といると７年前に戻った気がするの
子供のころのすごく楽しかったころに戻った気がするんだよ
それに、ずっと会っていなかったけどいつも一緒にいたような気がするんだよ
不思議・・・・だよね
なんでもないおしゃべりなのに楽しいの
一緒に歩いているだけなのにすごくうれしいんだよ
祐一に、おはようって言って一緒にご飯を食べて一緒に学校に行って、おやすみって言う
祐一がいる日常
それがすごく楽しいの、うれしいの、胸がいっぱいになるの
多分これが幸せって言うんだろうね・・・・・・
でも、これは恋なのかな？
男の子として祐一が好きなのかな？」
７年前のあの時
わたしが祐一のことを好きだと気がついたとき
いとことしての祐一は一人の男の子としての祐一になった
わたしは男の子としての祐一を好きになった
ギュッ、と強くケロピーを抱きしめる
７年ぶりに再会した祐一はいとことしての祐一だった
「いとこの祐一は好き」
はっきり言える
双子の兄妹みたいな関係
男の子も女の子もない一緒にいるのが当たり前
二人でひとつのリズムを奏でている
わたしはそんな関係のいとことしての祐一が好き
でも・・・・・・・
「・・・・・・・・男の子の祐一は？」
わからない・・・・・・
あの時ははっきり「好き」と言えた
今は・・・・・もう言えない・・・・・・





だって、自分の気持ちがわからないから・・・・・




だって、わたしの心はあのときから凍りついてしまったままだから・・・・・・・





だって、わたしの想いはあのときから止まってしまっているから・・・・・・・・・・・・・





だって、わたしの火はあのときから消えてしまったままだから・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・















「・・・・・・断るしかないよね？」
ケロピーは答えてはくれない
「気持ちがわからないんだから仕方・・・・・・ないよね」
自分を納得させるかのようにつぶやく
今まで何人にも告白されてきたけどわたしの返事はいつも「ごめんなさい」だった
みんなきっと真剣にわたしのことが好きだったのだと思う
でも、自分の気持ちがわからなかった
７年前から止まったままのわたしの想いはもう自分でもわからなくなってしまった
わたしの想いがどうなっていて誰に向いているのかさえも・・・・・・・
ただひとつだけわかっていること


それは、雪ウサギはつぶされたままということだけ

それは、わたしの想いはつぶされたままというだけ


そして、それは告白されるたびにわたしの頭の中で繰り返される
あの時のことを忘れさせないかのように・・・・・・・・
何度も何度も繰り返される・・・・・・・


そのたびに、自分の気持ちがわからなくなる

そのたびに、わたしの心の氷は厚くなる


今日、祐一に告白された時にも繰り返された
雪ウサギが粉々に砕け散る瞬間
わたしの想いが粉々に砕け散る瞬間
何度も繰り返された記憶


わたしは自分の想いがわからない・・・・・・

想いが誰に向いているのかわからない・・・・・・・



「・・・・・・・・・・断らなきゃだめ・・・・だよね」
何度もやったことのあること
いつもと同じように「ごめんなさい」と言うだけ
でも、それを言ってはいけない気がする
わたしの中の何かがそれを止めようとしている
ずっと昔に感じたことのある感情
胸の奥からあふれ出てくる感情


いつ感じたものなのか？

なんて名前だったのか？


思い出せない・・・・・・・・・・・
ただ、すごく大事な感情だということはわかる
暖かくて、やさしく包み込んでくる感じ
大事にしなくちゃいけないと思う
わたしはなんとなく寝返りをうってみた


左腕の下に何かある気がする
紙みたいに薄いけどある程度硬いもの
「・・・・・写真！」
すぐに腕の下から引っ張り出してみる
「う〜〜、ぐしゃぐしゃになってるよ〜」
手で伸ばしてみて元通りにはならない
それどころか余計に曲がってしまった気がする
「宝物・・・だったのに・・・・・・・・」
だれも聞き取れないくらい小さなつぶやき
だけど、わたしはそれを聞き逃さなかった
「・・・・宝物って言ったよね？」
自分が言ったことなのに自分じゃない誰かが言ったような気がして聞き返してしまった
「・・・・・・・」
誰も返事を返してはくれない
それは当然な事
部屋にはわたし一人しかいないのだから
それでも聞かずにいられなかった
「・・・・わたし、宝物・・・って言った・・・・・・」
たぶん無意識に言ったのだと思う


自然に出てきた言葉

心の奥底から生まれてきた言葉


確かにこの写真をずっと大事にしてきた
７年間ずっと大事にしてきた










わたしはいつもこの写真を見ていた


この写真はいつもわたしを見てくれていた


つらいときは写真を見ていた


うれしいときは写真を見ていた


つらいときは元気を分けてもらえた気がした


うれしいときはうれしさを分けてあげれた気がした


わたしはいつもこの写真を見ていた


この写真はいつもわたしを見てくれていた










「わたしの・・・・宝物」


それはどうしてなの？

どうして大事にしてきたの？


わたしはずっと考えた
一生懸命考えた
７年前と同じように
そして気づいた










好きだということを


恋をしているということを











「わたしは祐一のことが好き・・・なんだ」





わたしの心は芯まで凍りついていなかった



わたしの火は完全に消えてはいなかった



想いという火は凍りついた心の中でずっと心の芯を焦がしていた



闇夜にかかった霧が朝日によって消えるように
谷間にかかる霞が風によって流されるように
わたしの心は今、想いという光によって澄み渡るように晴れている

７年前のあの時と同じように一つの想いが支配している


「祐一が好き」


わたしは祐一が好き
あの時は、はっきり「好き」と言えた
今も言える


「わたしは祐一が好き」


だって、自分の気持ちがわかったから


だって、わたしの心は芯まで凍りついていなかったから


だって、わたしの火は完全に消えてはいなかったから









わたしはなにも変わっていなかった
祐一のことを好きだったあのころから

芯を焦がすだけだった火が一気に燃え上がる
炎となってわたしの心を包み込む

わたしは祐一が好き
７年前の気持ちのまま

凍りついた心を溶かして
再び心を燃やしてしまうかのように
炎は燃え上がる

止まっていた想いという流れは
７年間たまっていた力を一気に放出するかのように
激しく唸りを上げ流れ始めた



もう消えない

もう凍らない

もう止まらない



いや、もうこの想いを消したりはしない

いや、もうこの想いを凍らせたりはしない

いや、もうこの想いを止めたりはしない



さぁ、行こう



祐一のところへ



返事をするために



「好き」と言うために



ふぁいとっ、だよ

































「イチゴサンデー、７つ。それで、許してあげるよ」


結果のページ
戻る