止むことなく、ただしんしんと降り続ける雪。
駅前の木造のベンチ。いつもの……、いつの間にかの特等席。
ざくりざくりと雪を踏み行くのは、忙しなく行き交う人々の足。
ぼんやりと眺めた街並みは、白く霞んで見える。きっといつも見ている風景と同じ。
「…はぁ」
真新しい物なんて何もない。見慣れ過ぎた風景に、ボクは溜息を吐いていた。
そんな溜息すら、今まで何回も吐いた物と同じだった。その白く淀んだ空気は、これもい
つもと同じ様に、街並みからボクを切り離す。
いつからボクはここにいるんだろう……。
数瞬前までは分かっていた答えすら、白く霞んで見えない。
いや、数瞬前まで本当に分かっていたのだろうか。
街並みは何も変わらない。何一つとして、『動いていない』というのに。
絶え間なく行き交う人々、しんしんと降り続ける雪、その全てが何も変わっていない。
ここは過去も未来もない世界。
そんな中、ボクは待っている。
ボクはずっとずっとあいつを待っているんだ。
同時に……、いくら待ってもあいつは来ないだろうという事も分かっていた。
だって、ここにはボクしかいないのだから。
ボク以外の誰も存在しない世界に、あいつがいるはずがない。
……ボクしかいないと気付いたのも、いつのことだっただろうか。
初めから？ それともついさっき？
ふいに誰かに尋ねたくなっても、あいつの輪郭はすでに朧気になってしまっていて……。
もう『あいつ』が誰なのかも分からない。
そう。
ボクにはこのベンチに座って、待つことしかできない。
待つ相手が誰とも知らずに……。
「寒い…よ…」
掌を擦り合わせて、凍えた体を温めた。
この寒さの中だ。ずっと居たら、死んじゃうかもと考えたこともある。
だけど、死ぬどころか、寒さで感覚が無くなることすらない。
惨めだった。
何も変わらない変われないのに、この手を零れ落ちる砂のような感情は何なんだろう。
尽きることなく崩れて落ちる、ボクの中の何か。
悲しいのかな？ それとも辛いのかな？
泣きたいのに……、泣けない。涙が出ない。
ふわりと舞い落ちる雪。
そっと差し伸べて拾おうとするけれど、それはボクの掌に届く前に消えてなくなった。
フワリ
夢。
それは夢だったんだと気付いている。
夕焼け染まる商店街。
夜一緒に歩いた街路。
キミと食べたたい焼きの味。
思い出の欠片の全てが夢だと気付いたのは、いつのことなのだろう。
そう、ボクの時間は止まっていた。
季節の流れない刻の中で、朝の来ない夜の中で、ぼくはずっとひとりぼっちだった。
繰り返し、繰り返す。
季節はボクを忘れたまま流れる。
取り残されたボクは、変わることのない同じ景色を眺めていた。
だけど、知ってしまった。
例え夢の中の出来事だとしても……。
キミの温もりは、本当だったんだと信じられるから。
キミとの思い出を信じる気持ちは、やがて朝を呼び寄せる。
だって、それはボクとキミが望んだことだから……。
もうじき夜明けは訪れる。
だけど、目覚めを迎える前に、どうしてもやっておかなくてはいけないことがあった。
白み始めた空を眺めながら呟く。
夢の中に残してきた、たった一つのお願いを叶えるために。
ボクの、ボクの最後のお願いは――
「…あ」
ボクの掌に届く前に、すっと消えてなくなる雪。
やっぱり……、と後悔。してしまった行為をとても愚かめいたものに思えた。
ボク以外の何もない世界だと、否応なしに自覚出来てしまうからだ。
誰もいない。何もない。
見えているだけで、本当にあるわけじゃない物。
もうボク自身すら分からなくなる。
姿を映す鏡がないのだ。自分が見えない。
だから――
それは突然だった。
「よぉ」
ふいに声が生まれる。
ボクにとってそれはあまりにも唐突過ぎのことだった。ずっと誰にも声を掛けられるどこ
ろか、気付いても貰えなかったのだ。慌てて辺りを見回す。
「…え？ え？」
だけど、何処を見渡しても、声の主を見つけられなかった。
ボクの方を見ている人は、誰一人としていない。あるのは、相変わらず喧騒の聞こえない
人々と風景だけだった。
「ここだよっ」
声は男の人のようだけど、そんな人はやっぱり居ない。
「えと…、どこ？」
「こ・こっ！」
声はすぐ隣から聞こえていた。隣と言えば、ボクと同じベンチに座る女子学生……、この
人が男の人みたいな声を出すとは考えられない。
何より、この女の人もボクのことに気付いていない。もう一人向こうの黒髪の同じ生徒と、
夢中になって話をしている最中だ。
「…うぐぅ…、分かんない」
一体、誰なんだろう。
「あー、そうか。お前から見えないよな。今見ている女子生徒の腰の辺りまで、視線を落
としてみろ」
「う、うん」
言われるままに、女の人が着る制服の赤いスカートの辺りを見やった。
そこには小さな鞄が置いてある。少しだけ汚れているけれど、可愛い鞄。だけど、その他
には何もない。
「ひょっとして…、鞄が喋ってるの？」
「んなわけないだろっ」
「うぐぅ」
「俺は超常現象でも、憑依霊でもないぞ。いいから、この鞄を取ってくれ」
「盗って……？ ボク、泥棒なんて出来ないよ」
「だぁーっ！ 違うっ！ いいから持ち上げるんだっ」
「う…うん」
少しだけ借ります。ごめんなさい……、と女の人の後ろ髪に内心で謝りながら、鞄を借り
る。多分、女の人は借りたことも気付かないだろうから、大丈夫だと思うけど……。
持ち上げた鞄は何も入っていないのだろうか。とても軽い。膝に置いても、重さも大して
感じなかった。
「よし。それでいい」
「えと…、何処から喋っているの？」
鞄をかたかたと振ってみるのだが、やはり何も入っておらず、何も音は立たなかった。他
には……、デフォルメされた天使。可愛い小さな人形を横のフォルダーに着けてある。
「ここだよ。ここ」
……その人形が喋っていた。
「やっと気付きやがったか」
やっぱり『ちょうじょうげんしょう』の類だ。絶対に、鞄が喋るのと同じくらいヘン。
「普通は気付かないよ…。というか、キミは誰？」
「天使さんだ」
……見た目は可愛いのに、喋り方がちっとも可愛くなかった。その声も聞いていると、少
しだけほっとするような……、というかムカつくような。
少なくとも、さん付けだけはしたくない。
「え、えとぉ……、天使クン」
「ふむ…。まぁそれでいい。ちなみに、ちゃん付けで呼んだら、天使キックをお見舞いし
てやるからな」
言いながら、布で出来た短い腕をぶんぶんと振り回す。
それはキックじゃなくて、パンチだと思う。
どう言い返せばいいのだろう。
こういうことを考えるのは、本当に久しぶりのような気がするから、分からなくなってし
まう。
「……あのな、頼むから突っ込んでくれ。足が短くて、キックが出来ないんだよ」
頬の辺りを器用に掻きながら、天使はぼやいていた。だけど、刺繍で出来ている表情は崩
せないみたいで、笑顔のまま口調だけが困っている。
「…うぐぅ〜、ごめん」
その様子は滑稽と言えばいいのだろうか。でも可愛い。
可愛いだなんて、口に出したら怒られそうだけど。
「まぁいいけど……、ちなみに俺がただの天使だと思ったら、大間違いだぞ」
「うん」
それは分かる。人形が喋るなんて普通じゃない。
「なんとだ…」
焦らすように言葉を切る。
さらに偉そうに胸を反らしたりもしている。これも口には出せないけれど、その仕草は少
しだけ可笑しかった。
「なんと、願いを叶えることが出来る天使なんだっ」
ばんばんと、手で鞄を叩く。魚屋さんの叩き売りでもないのに、まるで自分の台詞を自慢
しているよう……、というか自慢している。
「…お願いを、叶えてくれる？」
「その通りっ」
ボクの頭の中に、ハテナマークが一杯浮かび上がる。この天使は何を言い出すのだろう。
「うぐぅ…、よく分からないよ…」
「えっとな、俺はお前の願いを叶えに来たんだ」
「え…、ボク、お願いなんてしていないよ？」
したいことや、欲しいものなんて何もなかった。
ずっと一人ぼっちだったからなのかもしれない。どうこうしたいなんて浮かんでこないの
だ。
「あ、違う。今のなしっ」
「俺が叶えに来たのは、…うーん。今のお前じゃない、お前の願いだ」
……さらに訳が分からない。
「うぐぅ…、今じゃない…違うボク……」
「だぁぁっ、難しく考えるなっ。そうだ。他の誰かに頼まれたことにしよう」
「…いいの？」
「いいんだっ」
ずばっと決め付ける。
天使って、こんなに適当でいいのだろうか。多分、彼だけなのだろうけど。
「それでな。そいつの願いを叶えるために、お前に思い出して欲しいことがあるんだ」
「ボクに…、ううん。ボクが忘れてしまっていること？」
「あぁ、そうだ」
「今から俺は願いを叶える。一世一代の大仕事だ」
「…うん」
ごくんと生唾を飲み込む。
「忘れてしまった記憶を思い出すために、これからお前には夢を見てもらう」
「夢…？」
「夢と言っても…、うーん。お前に説明しても、きっと分からないだろうから内緒だ」
惚けた口調からするに、多分ボクが分かる以前の問題で、彼自身が上手く説明が出来ない
のだろう。
「一時の夢だ。別に恐い思いをする……わけじゃないと思うぞ多分きっとだといいな」
「だといいなって…恐いの？」
「恐いっていうか…、まぁ…なんていうか…」
バツが悪そうに、どんどん声が小さくなっていく。
このヘンテコな天使ことが少し分かったような気がする。
悪い人じゃないけれど、絶対に隠し事をするのが下手。
ボクはそんな天使が可笑しくて、可笑しくてたまらなくて笑った。
こんなに楽しい気持ちになったのは、どれくらい前のことだろう。
何となく、突拍子もない天使の言葉も信じたくもなってしまう。
「いいよ」
「いいのかっ！？」
「うぐぅ…、ボクにどうして欲しいの？」
「い、いや。すまない。それでだ、続きがあってな」
「うん」
「長くて…だけど短い。そんな夢の中で、もし叶えて欲しい願いを見つけ出したら――」
神妙な口調で天使は言う。表情は笑ったままだけど、どこか真剣身を帯びているような。
きっと大切な話なのだろう。
「夢の何処かにいる俺を探し出せ。見つけ出せたならば、一つだけ叶えてやる」
「え、えと…」
それはどうしても探さなくてはいけないのだろうか。
今いるここでお願いするのは駄目なのだろうか。
そんな考えが、一度に思いつき、一杯頭の中で渦巻く。
ぺしっ。
「…いたっ」
黙っていたボクの鼻に、天使はいきなりパンチを命中させた。
布製で出来た体で、パンチの勢いもなかったけど、鼻に当たるとそれでも痛い。
「俺はな、今ここにいるお前の願いを叶えてやってくれと頼まれたんだ。だけど、今のお
前じゃ何も考え付かないんだろ？」
「う、うん」
確かに言われてみれば、全然思い付くわけがなかった。
「だから、夢の中でお前がしたいこと、やりたいことを見つけたら、叶えてやってくれと
頼まれたんだっ」
そう言う天使は、パンチを出した時の勢いが収まらないようで、ホルダーのチェーンに回
されて、ぶらぶらと空中ブランコしている。
「まったく。いつも呆けているのに、こういう時だけヘンテコな願いなんかしやがって」
「うぐっ。ご、ごめん」
「…ったく。とにかくだ。行くぞ」
「行くって何処へ…？」
ボクが訊くと、天使は呆れた声を上げる。
「このベンチから立たないと、夢が見れないだろうがっ」
「…そうなの？」
「そうだっ」
この訳の分からない押しの強さは、誰かに似ているような気がする……。
誰なのか思い出すわけがなかったけど、ボクの胸の一番奥から、例えようのない懐かしさ
が込み上げてきた。
眠っていた一番大切な想い。
そんな懐かしさにつられて立ち上がりそうになる。
だけど、ふと気付いてしまった。
「で、でも…、ボク……、どうやって立てばいいのか分からないよ」
ずっとずっとベンチに座っていたボク。
いきなり立てと言われても、どうやって立てばいいのか分からない。
そんなボクに、天使はぽつりと呟いた。
「たい焼き」
「うぐっ」
「腹減ってこないか？」
きゅうぅ……、とボクのお腹の虫が鳴き声をあげる。
「…ちょっとだけ」
言われてみれば、ずっと何も食べていなかった。
時間がお腹が減るほど一杯過ぎているなんて、全然気付かなかったし……。
「粒あんもいいし、こしあんもいいよなぁ…、ちなみに最近のマイベストはチョコだ」
「駄目だよっ。たい焼きはこしあんが一番だよっ」
「むぅ。この前と同じことを言われてしまった」
「…この前？」
「あ、違う。今の嘘」
「う、うん」
「とにかく、腹が減ってきただろう？」
「…うん」
「ちょっと近くの商店街にまで繰り出して、たい焼きでも買おうとか思ってこないか？」
お腹が空いているのに、立てずにいるボクにとって、天使の誘いはまさに拷問だった。
「うぐ……、でもボク…立ち方を知らない」
「あのな。何を言っているんだ？」
天使は仰々しく溜息を一つ。そしてボクの顔をゆっくり見上げると一言。
「もう立っているじゃないか」
「え…」
言われて足元を見れば……、ベンチに座っていたはずなのに、ボクはその場で立ち上がっ
ていた。
「あれ？ あれれ？」
不思議な思いで一杯だった。狐につつまれたとは、こういうことなのかもしれない。
「ほら、この鞄を担げ」
そんなボクのことは放っといて、天使は自分の体が着いている鞄を指差した。
「でも、これ…」
ボクが抱きかかえているこの鞄は、さっき隣の人から借りた物だ。
このまま担いでいけば、泥棒になってしまう。
「いいんだ。また戻ってきた時にでも返してやれば」
「そうなの？」
「そういうものだ」
絶対に、違うような気がする。
……でも、嫌だと言っても、この天使は聞いてくれないのは、何故か予想出来てしまって
いた。仕方がなく、ボクは鞄を背中に担ぐ。
「よし。担いだな」
「うん。でもね…」
ボクはここに居なきゃいけない。
ついつい忘れてしまいそうになるけれど、天使と話していてあのことを思い出した。
「ボク…、ここで人を待っているの」
ずっとずっと待っていた。一人ぼっちなボクだけど、あいつが来てくれたら一人じゃなく
なる。だから、いつか来てくれるだろうと信じて待っていた。
「あー、そいつはな……」
肩越しから、どこかバツの悪そうな声が響く。
「集合場所を忘れちゃったんだよ」
酷い言いようだった。
ボクもあいつのことを覚えていないから、良くは言えないけれど……、ここまでずばっと
言わなくてもいいのに。
この天使に言われると、本当に忘れられているのかと思ってしまう。
「うぐぅ〜…」
「でもさ。適当に商店街でもぶらついていれば、見つかるんじゃないか？」
「…うん」
そうかもしれない。あいつのことだ。きっといつものように商店街をぶらぶらとしている
に違いない。
早く見つけて、待ちぼうけさせたことを怒らなきゃ。
そう考えると、元気も涌いてくる。
「そいつがお前を見つけやすいように、元気よく、……な？」
「うんっ」
ボクは思い切って、最初の一歩を踏み出した。
さくっ、と景気の良い雪を踏みしめる音が立つ。
そのまま外に出ようとしたけれど、少しだけ気になっていたことを天使に尋ねる。
「ねぇ、天使クン。キミって、ひょっとして……」
背中のバックの天使に向かって声を投げかけた。
でも……。
「あれ？ …天使クン？」
返事が返ってこない。
もう行ってしまったのだろうか。
「そっか…、またね…だね」
『バイバイ』じゃなくて、『またね』。
天使は自分を見つけろと言っていた。だからきっと、夢の先に彼はいる。
探すのが二人になっちゃったけど、一人も二人も多さは変わらない。
ボクは立ち止りながら、居なくなった天使に呟く。
「きっと探し出してみせるよ」
見上げるそこには、ボクの世界の終わりがそびえていた。どこかに線があるわけじゃない
けれど、ボクの世界の終わりが目の前にある。
この先にあるのが、夢なんだと天使は言っていた。
でも、本当に夢なのか、それとも別の世界なのか分からない。
分かるのは、世界を越えるには、前の世界は置いていかなきゃいけないと言うこと。
天使は言ってくれなかったけれど、きっとこの境界線を越えてしまえば、ボクは今のボク
を忘れちゃうだろう。
恐くないと言えば、嘘になる。
でも、もっと正直に言えば、お腹が減っていた。
「うぐぅ〜、たい焼きの匂いがする……」
商店街の一角。
買い物帰りのお母さん達や学校が終わって寄り道中の学生で賑わいだ、夕暮れ時のいつも
通り。
ふと気が付くと、人の喧騒の中にボクは立っていた。
「あれ…？」
今まで何をしていたのか思い出せない。それはとても大事なことだったような気がするん
だけど……。
必死に思い出そうとしながらも、足は勝手にたい焼きの匂いを辿って行ってしまう。
……だって、すごく美味しそうな匂いだから。
そして、商店街の角を折れると、曲がった先にたい焼き屋さんの屋台が目に入った。
まぁいっか。
お腹も減っているし、たい焼きを食べながら思い出しても遅くはないだろう。
そして、ボクは走り出す。
「…これでいいのか？」
昔の自分を見送るボクに、戻ってきた天使が尋ねた。
「…うん。ありがと」
これで良かったんだと、ボクは自分にもう一度確認して呟く。
「だって…、ボクはもう……」
白み始めた空を見仰ぐ。
そう、朝はすぐ近くにまで来ていた。
「そうか。…そうだよな」
ボクの最後のお願い。
それは、あの頃のボクを夢の中に連れて行ってというものだった。
きっとボク自身が生み出した世界の中だったからこそ、叶えられたであろう……、それで
も随分と無茶なお願い。
でも、天使のキミは、そんな無茶なお願いを叶えてくれた。
「…それじゃ、願いも叶えたことだし、俺は行くな」
「うん」
「あ、向こうでは俺はただの人形だから、話し掛けるなよ。ヘンな奴と思われるぞ」
「そんなことしないよ〜。それに……」
「……だな」
キミは、ボクに微笑む。
ボクも笑う。
そして、ボク達は雪の上にできた小さな足跡を見やった。
それは今は短い道だけど……。
「きっと大丈夫だよね。ボクが大丈夫だったんだから」
その道はやがて今のボクに繋がっていくのだろう。
誰かを想う気持ち。
それはきっと奇跡なんかじゃない。
でも、キミとまた出会えたのは、奇跡なのかもしれないって思うんだ。
だから、ボクは『願い』を昔のボクに託した。
ひょっとしたら、今のボクとは、違う結末が待っているかもしれないけど……。
例え、どんな結末が待っていようとも、想いが生み出した形だと信じられるから。
「またね…、昔のボク」
遠くの空で太陽が顔を出す。
そんなことを知らずに、相変わらず振り続ける雪。ふわりと舞い落ちる雪。
ふわりと舞い落ちる雪は、地面にいくつもの小さな影を落としながら、朝日の優しい光に
包まれて、きらきらと輝いていた。
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