それから数日後の土曜日、名雪と美汐と真琴は香里の家に泊まりこみで遊びに行っていた。
彼女達は暫くの間雑談に話を咲かせていたのだが、
「ねえ、一つ聞いていいかしら？」
「何、香里？」
「あなた達は相沢君の事今どう思っているの？」
「「祐一（相沢さん）の事（ですか）・・・。」」
香里のこの質問に他の三人は黙ってしまったのだが、
「真琴は祐一の事なんか大っ嫌いよ！」
「本当にそうかしら？」
「だって、祐一は意地悪だし、外で会っても私のこと相手にしてくれないし・・・、潤の方がよっぽどいいわよ。優しいし肉まん買ってくれるし・・・。」
真琴は強がってそう言ったものの、祐一のことを本当に嫌っているとは思えないような口調でそう言った。
「名雪に天野さんはどうなのかしら？」
「私は・・・、わからないよ・・・。あの時、祐一の事嫌いになったはずなのに・・・、祐一と話せないのはとても辛く感じるんだ・・・。何でだろうね・・・、香里。」
「名雪・・・。」
「私は・・・、相沢さんが七年前にはじめて真琴と出会ってから、そしてこの街に戻ってきて真琴と再び出会ってから真琴に見せた優しさが偽りだとは思えません。相沢さんが皆から離れようとするのにはきっと何かわけがあるのだと思います。」
「私も彼が栞や私に、そして他の皆にみせた優しさが偽りのものだとは思っていないわ。とにかく相沢君が皆から離れようとする理由が何なのかを調べないとね。」
「その理由がわかったら祐一はまた真琴と遊んでくれるの？」
「それはまだはっきりとはわかりませんけど・・・、とにかく何もしないよりはましです。」
「うん、そうだね。祐一が何も教えてくれないのなら私たちのほうから調べればいいんだよね。」
「とりあえず今日はこの話はもう終わりにして、何か楽しい話をしましょう。せっかくのお泊りなんだから。」
「うん、そうだね。」
こうして、四人は寝るまでの間再び雑談に花を咲かせた。
翌日、四人は北川と共に病院にお見舞いに行った。
お見舞いはいつものように終わるかに思われたが、
「名雪、祐一さんは今日も来てないの？」
秋子のこの言葉で皆は一瞬固まってしまった。
「う、うん。祐一今日もなんか忙しいんだって」
香里に後ろからつつかれ正気にもどった名雪が秋子にそう言った。
「名雪・・・、祐一さんに何かあったの？」
秋子は名雪の目をじっと見つめながらそう言った。
しばらくの間、秋子の病室は沈黙が続いたが、
「もうこれ以上隠すのは無理ね。」
香里は諦めたようにそう言った。
「何があったのか・・・、話してくれますね？」
「私達もあまり詳しい事はわからないんですけど、とりあえず今どういう情況になっているのかを話しますね。」
香里はそう言うと、秋子に現状の説明を始めた。
説明が終わって、
「とりあえずもうすぐ退院出来るから、退院したら祐一さんに会って直接話を聞いてみることにしましょう。」
という秋子の言葉に、
「そうだな。秋子さんに問い詰められたらあいつも多分何があったのか話すだろうし。」
北川がそう言った。
とここで、秋子が香里に手招きし何かを耳打ちした。
すると、香里は他の皆を手で制し足音を出来るだけ立てないようにしてドアの前まで行き、すばやくドアをあけた。
「「「うぐぅ（（きゃあ））。」」」
するとそこには聞き耳を立てていたであろうあゆと栞と舞と佐祐理がいた。
「う、うぐぅ。見つかっちゃった・・・。」
「あ、あははー。私たちがいると話しづらいと思ったので・・・。」
香里はため息を一つつき、
「これで結局入院してる人全員にばれちゃったってわけね。」
「・・・退院したら私も祐一に会いに行く。」
「私も祐一さんに会いに行きたいです。」
「ボクも祐一君に会いたいよ。」
「佐祐理も祐一さんに会いたいです。」
「それじゃ皆で会いに行きましょうか。たしか退院予定日は皆同じだったはずですから。」
こうして皆が祐一に会いに行こうと盛り上がってる中、美汐は心の中で祐一は果たして自分達に会ってくれるのだろうかと漠然とした不安をよぎらせていた。
次の日から名雪達は祐一に何があったのかを調べ始めた。
また、名雪達の行動を聞きつけ久瀬も彼女達に自分の心境の変化を話し、調査に協力した。
しかしそれでも真相は何一つわからなかった。
祐一はというと、授業をサボる事が多くなり、たまに授業に出ている時でもいつもボーっとしていた。
そして秋子たちの退院が明日に迫ったある日の午後、５時間目の授業をしているはずの時間、祐一と斎藤は屋上に佇んでいた。
「なあ・・・、あとどれくらいなんだ？」
「・・・もう時間は殆ど残ってないな。もしかしたら今日で学校に来るのも最後になるかもしれない。せめて卒業式くらいは見ときたかったんだけどな・・・。」
「相沢が見たいのは卒業式じゃなくて川澄先輩と倉田先輩の晴れ姿だろ。」
斎藤のこの言葉に祐一は苦笑し、
「ばれたか。まあどうやらそれはかないそうもないけどな・・・。」
祐一と斎藤はこの後しばらく黙っていたが、
「にしても、やせたな・・・。」
「まあ最近は殆ど何も口にしてないからな。今ではもう水すら殆ど受け付けないくらい体がぼろぼろになっちまったし・・・。」
「そういえば、水瀬さんたちがお前の事色々とかぎまわってたみたいだぞ。」
「ああ、知ってるよ。とりあえずもう少しだけごまかせればそれでいい。」
「・・・本当に、それでいいのか。」
「どうあがいても俺は死を免れる事は出来ない・・・。それに、いなくなってしばらくすれば皆俺の事なんか忘れるだろうさ。」
「・・・少なくとも、俺は忘れねえよ。」
斎藤のこの言葉に祐一は斎藤の方を見た。
「俺は相沢の事がうらやましかった。あっという間に皆の中に溶け込み、皆と仲良くなる事のできる相沢の事が。俺は相沢みたいな奴と友達になれたらって思ってた。まさかこんな形でそれがかなう事になるとは思わなかったけどな・・・。」
「斎藤・・・、すまない・・・。」
祐一と斎藤はこの後再びしばらく黙っていたが、
キーンコーンカーンコーン
「っと、とりあえず俺は教室に戻るぜ。」
祐一はそう言うと、屋上をあとにした。
斎藤はしばらくの間その場に佇んでいたが、
「俺は、俺は一体どうすればいい・・・？」
うめくような声でそう呟いた。
そして次の日、この日は土曜日だったのだが祐一は三時間目からいなくなって四時間目が終わっても帰って来なかった。
ＨＲが終わった後で名雪達は集まり校舎内を探し回ったが見つからず、しょうがないので病院に向かって秋子たちと合流する事にした。
病院で秋子たちと合流した名雪達は祐一を探しに行こうとしたのだが、そこに斎藤が現れた。
「あら、あなたはたしか・・・」
香里が途中まで言葉を発したところで、
「同じクラスの斎藤だよ。まあ授業をよくサボってるからあまり顔を覚えてる奴はいないだろうけどな。」
と斎藤が言った。
「それで、何の用なんだ？」
と北川が言うと斎藤は、
「相沢の事で話があってきた。」
と言った。
斎藤のこの言葉で皆は顔色を変えて斎藤に詰め寄った。
斎藤は皆を手で制しながら、
「落ち着け、今話すから。」
斎藤の言葉で皆はとりあえず斎藤から離れた。
「まず最初に言っておくと、相沢は決してお前達への想いを失ってはいない。これは確かな事だ。」
「そうなんだ。よかった・・・。」
斎藤の言葉に名雪が嬉しそうに呟いた。
他の者達もまたその表情には喜びの色を浮かべていた。
「それならどうして彼は皆から遠ざかろうとしたんですか？」
久瀬がそう聞くと、
「相沢は・・・、自分が死んだ時皆が悲しむ事が無いよう皆から遠ざかろうとしたんだ・・・。」
斎藤のこの言葉を聞いて、皆は一様に青くなった。
殆どのものは茫然自失となっていたが、秋子がいち早く立ち直り、
「祐一さんが死ぬというのは・・・、どういうことなんですか？」
と斎藤に聞いた。
「あいつは中学に入学してから卒業する頃まで、とある人物から法術というものを学んでいたらしいんだ。もっとも、修行不足のせいでたいしたことは出来ないって言ってたけどな。」
「法術・・・、ですか・・・？」
「ああ。そしてあいつはあんた達の中の何人かが死の淵に立たされていた時、それを救うために法術を使った。」
斎藤がそこまで言うと
「ちょっと待って下さい。相沢さんは自分の法術では大した事は出来ないとおっしゃってたんですよね。それなら・・・。」
と美汐が言った。
「そう、確かにあいつの法術の腕では複数の人間を死の淵から救う事など到底不可能だった。だから、あいつは法術使いとしては最後の手段を使ったんだ・・・。」
「最後の・・・、手段・・・？」
「法術は本来術者の精神力で発動させるものらしいんだが、あの時あいつは精神力の代わりに己の生命力を使って術を発動させたらしいんだ。そうする事で本来なら使えないような強力な術を使う事が出来るようになるってあいつは言ってた。」
「その結果が・・・。」
「ああ、今の相沢だ・・・。あんた達も、相沢が以前と比べると見る影もないくらい痩せているのは知っているだろう。相沢は、もう水すら殆ど受け付けないくらいからだがぼろぼろになっちまってるらしい。そして、もう時間は殆ど残されていないって言ってた、昨日な・・・。」
「そんな・・・。」
名雪が半ば絶望したような声でそう呟いた。
「彼が今どこにいるのかわかりますか？」
久瀬が斎藤にそう聞くと、
「生憎だが俺にはわからない。だが、相沢はおそらく自分にとって思い出のある所で最後を迎えようとするんじゃないかと思う。あくまで俺の勘だがな。」
と斎藤が言った。この言葉に北川は、
「確かにあいつの性格を考えるとそうかもしれないな。でもあいつにとって思い出のある場所ってどこだ・・・？」
そう言って考え込んだ。
「「「「「「祐一（君）（相沢さん）にとって思い出のある場所・・・。」」」」」
「私、心当たりがあるよ！」
「ボク、心当たりがあるよ！」
「私、心当たりがあります！」
「・・・心当たりがある。」
「真琴一箇所知ってる！」
「七年前、祐一に雪兎をあげようとした、そして二ヶ月前祐一と七年ぶりに再会した駅前のベンチだよ！」
「ボクと祐一君の二人だけの学校があった場所だよ！」
「祐一さんとのデートで行った噴水のある公園です！」
「・・・十年前、祐一とはじめてであった麦畑があった場所。」
「私が祐一と初めて出会ったものみの丘よ！」
と名雪、あゆ、栞、舞、真琴が同時に言うと、
「ちょっと待って、一度に言われてもわからないわ。とりあえずその中から相沢君のいそうな所を絞り込まないと。」
香里がそう言って5人を制し、
「それもそうだな。」
北川がそれにあいづちをうった。
皆はしばらく考え込んだが
「とりあえず、駅前のベンチと公園にはいないと思いますよ。」
久瀬がそう言った。すると、
「「どうしてそんなことがわかるんですか！？」」
名雪と栞が怒りを込めた口調でそう言った。
「彼は自分の死に場所を求めているんだ。そんな人目につくような場所はまず避けるだろう。」
「「あっ・・・。」」
久瀬の言葉に二人は思わず声を上げて、
「「ごめんなさい（すいませんでした）・・・。」」
と謝った。
「川澄先輩の言う麦畑のあった場所って今はどうなってるんですか？」
「・・・今は、新校舎が建ってる。」
「じゃあそこも違いますね・・・。」
「となると、残りはものみの丘とあゆちゃんの言う二人だけの学校の会った場所ですね。」
「真琴と私は最近よくものみの丘に行きますから・・・。」
「相沢がその事を知っていてもおかしくはないだろうから・・・、となると・・・。」
「祐一君とボクの二人だけの学校があった場所は森の奥だから人は来ないよ。」
「じゃあそこで決まりだな。行ってみるか。」
こうして、皆はあゆと祐一の二人だけの学校があった場所へと急いだ。
そして皆が急いでその場所に向かうと、祐一は切り株に座り込んでいた。
口元に当てていたであろう右手と自分の足元の雪を血で赤く染めて・・・。
皆が到着すると祐一はゆっくりと顔をあげて、
「なんだ・・・、皆来ちまったのか・・・。」
か細い声でそう言った。
最初うつむいていたのでわからなかったが、祐一の口元もまた血で染まっていた。
皆はなかなか祐一に声をかけることが出来ず、しばらくの間沈黙が続いたが、
「・・・なんで、私たちに本当のことを教えてくれなかったの？」
と舞が言った。
「皆を悲しませたくなかったからな・・・。このまま一人で死んで、皆から忘れ去られればよかったんだけどな・・・。結局そういうわけにはいかなくなったみたいだな・・・。」
そう言って祐一は自嘲気味に笑った。
「何で、そんな悲しい事を言うんですか・・・？」
という佐祐理の言葉に、
「佐祐理さん・・・。俺は馬鹿だから・・・、これくらいしか思いつかなかったんですよ・・・。」
「祐一さん・・・。」
「祐一・・・、また真琴を置いてどこかに行っちゃうの・・・？そんなのやだよっ！真琴を置いて行っちゃやだよ！」
「真琴・・・。ごめんな・・・。でも、もうどうしようもないんだ・・・。」
「あうー・・・。祐一ぃ・・・。」
いつしか祐一以外の皆の目には涙が浮かび始めていた。
「どうしたんだ、皆・・・。なんで泣いてるんだ・・・？」
「ここにいる人たちは皆、友人として、あるいは異性として、祐一さんの事が好きだから・・・、祐一さんとの別れが悲しくてないてるんですよ・・・。」
秋子は涙を流しながら祐一にそう言った。
「皆に泣かれたりすると嫌だから・・・、黙っとこうと思ったんだけどな・・・。」
祐一はそう言って再び自嘲気味に笑った。
「皆、ごめんな・・・。悲しい思いをさせちまって・・・。本当に・・・、ごめんな・・・。」
祐一はそこまで言ったところで右手を口元に当て、激しく咳き込んだ。
祐一は大量の血を吐き、祐一の血は地面をいっそう赤く染めた。
「「「「「「「「「「「「祐一（君、さん）（相沢（君、さん））！」」」」」」」」」」」」
それを見た皆は思わず叫んで祐一に駆け寄ろうとした。
「来るなっ！！」
祐一は何とか搾り出すように叫んで、駆け寄ってこようとする皆を制した。
「どうやら・・・、もうそろそろ時間みたいだな・・・。秋子さん、親父とお袋に伝言お願いできますか・・・？何にも親孝行できなくて、すまないって・・・。」
「はい・・・。」
「ありがとうございます・・・。」
「皆、見ていてくれ。これが俺が皆の前で使う最初で最後の法術だ・・・。俺はこの術でこの地に魂を宿す・・・。そして、皆の事をここから見守る事にするよ・・・、いつまでも・・・。」
祐一はそう言うと、ふらふらと立ち上がってなにやら印を組みながら呪文を唱え始めた。
皆は誰一人として動く事が出来ずにそれを見つめていた。
呪文が進むにしたがって、祐一の体は徐々に光の粒子となっていった。
そしてもう少しで祐一の体が完全に光の粒子になろうかというところで、突然祐一の体が元に戻った。
「術が・・・、妨害された・・・？」
「ふむ、どうやらぎりぎり間に合ったみたいじゃの。」
皆が声をした方を向くと、そこには一人の老人が立っていた。
「師匠・・・。」
「ひさしぶりじゃの。まだ若いのに死に急ぐものではないぞ。」
「なあ、あんたなら相沢を助ける事が出来ないか？」
斎藤が祐一の師匠に聞くと、
「残念じゃが、こうなってしまってはわしの力では救う事は出来ん。」
「そんな・・・。」
「じゃが、方法がないわけではないぞ。」
「「「「「「「「「「「「本当（ですか、か）！？」」」」」」」」」」」」
「うむ、今のこやつは生命力がつきかけておるのじゃからその生命力を他からもって来ればいいんじゃよ。」
「なるほど、言われてみればそうだな。」
「つまりここにいるみんなの生命力を相沢に分け与えれば相沢は助かるんだな。」
この北川の言葉に祐一は、
「けど、それをするのは・・・。」
といった。それに合わせるように祐一の師匠が、
「じゃが、訓練していない人間の生命力を他人に分け与えるのは相当の危険が伴うんじゃ。下手をすれば命を落としかねんほどの危険をな。」
と言った。
「じゃあどうすれば・・・？」
この久瀬の言葉に祐一の師匠は、
「わしの秘術の一つに複数の人間の魂を共有させるというものがある。それを使った上でなら安全に生命力を分け与える事が出来るんじゃ。」
これを聞いて斎藤が、
「じゃあすぐにその術を・・・。」
と言ったが、
「ただし、この術は魂を共有しあう者達の心が一つになっておらんと成功せん。失敗した時は命の保障は出来んぞ。」
祐一の師匠のこの言葉に皆は一瞬沈黙したが、
「・・・ここにいる人達はボクを含めて皆祐一君を助けたいって思ってる。だから、きっと心を一つに出来るよ。」
最初にあゆがそう言うと、
「そうだよ、祐一を助けたいっていう気持ちは皆同じだからきっとうまくいくよ。」
「あうー、よくわからないけど・・・、ようは祐一を助けたいって心から思えばいいんでしょ。それなら出来るわよ。」
「相沢さんを救うためなら、ここにいる人達は皆心を一つに出来ると思います。」
「形の違いはあれ祐一さんへの想いの強さは皆同じです。だからきっとうまくいきますよ。」
「私も栞の意見に賛成するわ。」
「・・・祐一は絶対に助ける。」
「祐一さんに舞と佐祐理の晴れ姿を見てもらうためにも祐一さんは絶対に助けます。」
「相沢をまだ美坂チームから外した覚えはないからな。美坂チーム復活のためにも相沢には助かってもらうぜ。」
「僕はこれから先相沢君とは親友になれたらと思っている。だからこんな所で死んで欲しくはないですね。」
「せっかく友達になれたんだからこんな所でお別れってのはごめんだぜ。」
「祐一さんは姉さん達夫婦の子供であると同時に水瀬家の家族の一員でもありますからね。早すぎるお別れには了承出来ません。」
と皆が口々に言った。
「どうやら皆やる気みたいじゃの。それで、おぬしはどうするんじゃ？おぬしがやる気にならんと術の成功はありえんぞ。」
「俺は・・・、可能ならこれからも皆と共にこれからの人生を歩んでいきたい。」
「ふむ、決まりじゃな。それじゃああまり時間もない事じゃし早速始めるとするかの。」
祐一の師匠はそう言うと印を組んで呪文を唱え始めた。
すると、皆の体から金色の光が滲み出してきて、徐々にそれらが繋がっていった。
「心を一つにするんじゃ。さもなくば術の成功はありえんぞ。」
皆の心に祐一の師匠の声が響いた。
皆は共にこれからの人生を歩んでいきたいと願った。
その想いが一つになった時、光がはじけた。
光が消えた時、祐一の師匠の姿はもうそこにはなかった。
「祐一・・・、さん・・・？」
秋子が恐る恐る祐一に呼びかけると祐一は顔を上げた。
祐一の顔はまだやつれてはいたものの生気が戻っており、口元の血も消えていた。
「「「「「「「「「祐一（君、さん）（相沢（君、さん））！！」」」」」」」」」
それを見ると女性陣は歓喜の声を上げていっせいに祐一に抱きついた。
男性陣は抱きつきに行ったりはしなかったが、嬉しそうに祐一を見ていた。
泣きながら抱きついてくる女性たちの頭をなでてやりながら祐一は心の中で、
「師匠・・・、本当に・・・、ありがとうございました・・・。」
と呟いた。
すると、
「かわいい弟子のためならこれくらいどうって事ないわい。」
という師匠の声が祐一には聞こえたような気がした。
さて、祐一はその後どうなったかと言うと、授業をサボっていた分の遅れを取り返すのに必死になっていた。
また、授業をよくサボっていた斎藤もみっちり勉強を教えられていた。
まあ斎藤は皆と一緒にいる事が楽しいらしく、勉強中も特に嫌そうな顔をする事はなかった。
とはいっても、その勉強が学年末試験に間に合うはずはなかったので二人は仲良く追試を受ける事となった。
ちなみに、北川はぎりぎりで追試をパスしたようだった。
真琴は秋子が入院している間美汐の家で暮らしていたのだが、今後も美汐の家で暮らす事になった。
全てを聞いた美汐の両親が真琴を家族として迎え入れる事を快く了解し、真琴も美汐の家で暮らしたいと言ったからだ。
あゆは、身寄りがないので水瀬家にやってくる事となった。
舞と佐祐理は、佐祐理の強い希望で卒業後は一緒のアパートで暮らす事となった。
佐祐理の両親の説得に少々苦労したようだが、結局反対を押し切ったみたいだった。
祐一は卒業式の頃には体調も完全に健康な状態に戻り、卒業式では舞と佐祐理の晴れ姿を拝む事が出来た。
他にもいろいろな出来事があったのだが、それはあえてここでは書かない事とする。
祐一は想いの果てに自らの命を犠牲にし、皆の前から消える事を選んだ。祐一には絶対なる死の運命が待っているはずだった。
しかし、皆の想いは祐一の死の運命を上回った。
この先祐一達をいろいろな事が待ち受けているであろう。
それらは決して楽しい事ばかりではなく、辛い事や悲しい事もあるであろう。
だがそれでも、祐一達は決してくじける事はないだろう。
祐一達の魂は、想いという名の絆で結ばれているのだから・・・。
どうかこれからの祐一達の歩む人生が幸せなものでありますように
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