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　０５>　開始（ＰＭ０：００）

　そして、ビルとビルの隙間を埋めるようにして作られた公園で、姉妹は向かい合った。

　祐一を真ん中において、四半歩程度の距離をとり向かい合う彼女らは、さながら西部劇ガンマンの様相を呈していた。
　どちらが先手を打つべきか、お互いが言葉を捜している。
　祐一は動かない。
　さながら決闘の見届け人のごとく、最後まで押し黙っているつもりだった。

　栞は焦る、何時までたっても謝罪の一言が出てこない自分に。
　
　香里は躊躇う、始まりの言葉が告げるこれまでの関係の終わりに。

　だが、中心に立つ少年のことを思い、姉妹は決意した。

　「あのっ・・・！」
　「えっと・・・っ！」

　言葉は、同時に発せられた。
　そのことにお互い怯んだが、侭よとばかりに言葉を繋げたのは香里が先であった。

　「あのね、あなたに聴いてもらいたいことがあるのよ。私の・・・妹のこと。」

　まず、割り切ること。

　「妹が居たの。丁度あなたと同い年の。大切だったけど、最後まで喧嘩・・・そうね、くだらない喧嘩をしていたんだわ。だから出来れば謝りたかったけど、それももう出来ない。その子はもう居ない。私が謝らなければいけなかった妹は、もう居ないの。」

　そして、それを相手にはっきりと伝えること。
　栞の顔は驚愕で青くなっている。
　それでも、気丈に香里の話は聞いてくれた。
　香里は目線だけで祐一を見た。
　祐一も香里を見ていた。
　だから彼女は、先に進んだ。

　「拒絶されて、拒絶したわ。だけどそれはもう終わった事。私はこれ以上このことを気に病むつもりは無い。」

　開き直りと言われればそれまでだけれども、今の香里には必要なことだった。
　これ以上、過去に縛られるつもりは無い。

　「ねぇ、あなた。」

　香里は栞に呼びかける。
　
　「あなた、私の妹にならない？きっと今のあなたとなら、良い姉妹になれると思うの。」

　それが、彼女の最大限の譲歩だった。
　謝るべきタイミングを見失った少女の出した、最低の中の最善な解決策。
　
　ようやく終わったと、祐一は思った。
　香里の言葉は、実際それほど悪いものではないと思う。
　内容的には香里自身を上手く擁護しており、かつ栞に対して香里から譲歩をみせているのだから栞も面子が立つだろう。
　内容的に褒められるかどうかは、さておき。
　ともかく、長く壮大な姉妹喧嘩もこれで仕舞になれば良い。
　そのために祐一は散々手を回してきたのだから。
　一度でも歩み寄ることができれば、後は時間の流れが何とかしてくれるだろう。
　祐一は天を仰いで彼女達の言葉を待った。

　一つの終局と始まりの言葉を。

　栞は姉の言葉を聞いて涙を流していた。
　余りにも身勝手なその物言いは、しかし姉にしてみればそれが精一杯なのだと理解できたから。
　だから、甘んじてうけよう。
　今まで散々自分が我侭を言ってきたのだから、今は姉の我侭を聞いてやる番だから。
　栞は、言うべき一つの言葉を選んだ。
　謝罪ではない、始まりの言葉。

　「美坂・・・栞です。よろしく、お願いします、ありがとうお姉ちゃん。」

　香里は、栞にゆっくり近づきながら、その言葉に答えた。

　「栞・・・私の、たった一人の妹。初めまして、これからよろしくね。」

　もう、彼女達は自分を殺して付き合う必要も無いだろう。
　どちらとも気兼ねなく言い合える関係になれるだろう。
　それこそが、自分を殺して姉妹に付き合った祐一の望んだ結果だった。

　上手くいった。
　祝杯をあげたくなるような気持ちで、祐一は宣言した。

　「じゃぁ、話もまとまったし・・・行くとするか！」

　 帰らず、進む。
　行く事を決めた少女達を祝福するように、太陽が最も高い位置で輝いていた。


　-閉幕-
　




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