―― 一回裏 ――
まあ、お嬢様としたことが
本当に詰らない男をお選びになったものでございますよ
乳母
バカタレどもが夢の跡。
未だ少しその名残を感じさせる教室内。つい２４時間前。分に直して１４４０分。カップラーメン４８０個作れちゃう時間。その時此処は漢たちの楽園だった。
だが、そこは今や乙女らの花園。舞い散るそれは百合の花。可憐に咲き乱れる華々は孤独と切なさ醸されん。今、その気高き花が二輪、優しく詩を奏でよう。儚く脆い恋の調べ。涙と共に、さあ謳わん。
「うー。祐一ひどいよ……」
「酷いわねぇ」
祐一たちが大暴れした次の日、名雪と香里は他の皆が帰った後もこうして居残っていた。
机に突っ伏して、涙を流しているのは名雪。その親友の後ろで、何やらノートに書き込んでいるのは香里。
先ほどから同じ言葉ばかりを繰り返している親友に、香里は気だるげに生返事を返していた。そんな香里に名雪は振り返って絡むように唸る。
「香里、聞いてるのー？」
「聞いてるわよ。さっきから」
「うー。祐一ひどいよー」
と、また繰り返す。そんな様子を一瞥して、はぁと香里は溜息をついた。香里がこうして残っているのは、自分の前で不貞腐れている少女の呼び掛けによるものだった。
話によると、名雪は昨日他校との合同練習会に臨んだらしい。そこで普段なかなか会えない友人たちと記録を競い合い、交流を深める。練習会が終わった後に、皆で甘いものを囲み、談笑する。そんな愉しげな催しで彼女は衝撃の事実を耳にした。
それを伝えたのは山瀬みつき。彼女こそが今回の全ての原因。北川の中学時代の友人であり、同じ長距離という種目を通じて仲良くなった、名雪の友人の一人であった。
彼女が名雪を不幸のどん底に陥れたお話。それは――。
「ねえ名雪。北川潤って知ってる？」
「うん。同じクラスだよ」
こういう時、やはり共通の知り合いがいると強い。話は弾んだ。とても弾んだ。弾んだ拍子にうっかりいらん口を滑らせてしまうほどに弾みまくった。
そう。それさえ言わなければ、今回の事件は起こらなかったのかもしれない。だが、運命とは皮肉なものだ。
案の定、彼女は口が滑った。最悪のパターンで。
「あのね、今度その北川くんとその友達とで合コンするんだ。友達の話とかしたんだけど、結構面白そうだったし」
「えっ！？ その友達ってなんて人？」
名雪の中に不安が過る。北川の友人は意外に多い。だが、それは浅い仲の友人を含めての話。
こう言った事につき合わせるような友人は限られていた。そして、その中には彼女の思い人もいる。
ううん。そんな筈はない。と名雪は思った。祐一が自分をどれだけ好きでいてくれるか、それを名雪は知っている。あの告白を憶えている。側にいてくれると約束してくれた。ずっとここにいてくれるって、約束してくれた。本当に好きだって言ってくれた。名雪はそれを信じていた。
けどまあ、世の中は世知辛いから世の中って言うのであって―――。
「えーと……久瀬くんって生徒会長の人と……斉藤くんって人と……それから、相沢くん……だったっけ」
その瞬間、名雪は倒れた。
そんなこんなでこうして名雪が愚痴り、香里がそれに合わせるという構図ができあがったという訳だ。
名雪がまたその言葉を繰り返した。香里が多少うんざりとした顔で、途中まで描かれた正の字に１画加える。ノートに描かれた正の字はひとつ、ふたつ、みっつ……これで５つめ。
溜息がまた漏れた。名雪はそんな香里を見逃さない。再び言葉を繰り返す。「香里聞いてる？」
「聞いてるわよ」とお座成りな返事をしたところで、香里はようやくやる気を出した。
そもそも、どうして自分は此処にいるのだろう。本当なら今頃栞と仲良く買い物にでも出かけている頃だろう。なのに、あたしは今もこうして名雪の愚痴の数を数えてる。これも全部、浮気した相沢君と原因を作った北川君のせいだ。ならば、せいぜい愉しませてもらおう。そう香里は思い、邪悪に笑った。
「忍び込むわよ」
「えっ？」
名雪の驚いた声。だが、捲し立てるように香里が次の言葉を唱える。
「そのみつきって子に協力してもらって４人の状況を観察するの。勿論、危なくなったら止めにいく。現場を抑えたら、煮るなり焼くなり好きにしても大丈夫でしょ」
「け、けど……」
「あーもうじれったいわね。相沢君を別の子に取られてもいいの？」
「だ、ダメだよ！ 祐一はわたしのだよ！」
闘志を燃やしてそう告げる名雪の姿に、香里はにやりと口を歪める。
と、その時、小さく声が聞こえた。あーはーはーと。放課後で、二人きりの教室だったりするので地味に不気味。
それが徐々に大きくなる。というか近づいてくる。かなり怖い。いや、寧ろむっちゃ怖い。
名雪が身を震わせた。香里が拳を握って身構えた。そして、教室のドアが勢いよく開いた。
「あははー」
佐祐理だった。先代三年の学年主席。というか、もう卒業した筈の彼女が昔通りの微笑みを称えていた。
と、横から掠れた声も。
「さ、佐祐理……」
＋舞。倉田佐祐理が先代の最優良生徒だとしたら、彼女はその反対。恐らくはそう教師から認識されていただろう。彼女が問題を度々起こしたことは学年を隔てて、香里たちの耳にも届いている。
さて、その川澄舞であるが、何故か衣服はボロボロ。整った顔も土埃で薄汚れている。
どうやら引き摺られてきたらしい。解けて、所々跳ねた髪が憐憫を誘う。なんというか、気の毒すぎて声をかけるのも躊躇われた。
「今、美坂さんがいいこと言いました。そうですよー、水瀬さん。泣き寝入りしちゃいけません」
は、はぁ。と生返事。というか、佐祐理の横では舞が倒れ、ついでに「か、帰る……」と呟いて、ずりずりと匍匐前進。あまりにシュールなその光景が二人の思考回路を遥か彼方へとぶっ飛ばす。
二人から毀れた声をいい返事と強引に受け取った佐祐理。舞のことなどさっぱり気にせずに話を続ける。
「潜入捜査なんて久しぶりです。とりあえず、こっちで用意できるものは用意しますね。盗聴機に発信機。あと、事前に近くの部屋を確保しておく必要がありますねー」
呆気に取られる二人を尻目に次々と案を出していく。そして同時に二人の中にあった倉田佐祐理像もガラガラと崩れ落ちていく。
「それでは、そちらは山瀬さんへの連絡をよろしくお願いします。今言った他に何か必要なものがあれば、佐祐理に連絡してください。それじゃあ、舞。これから忙しくなりますよー……って舞ー！？」
隣りに声をかけようとして、ようやくその事に気付いたらしい佐祐理。教室を忙しなく駆け回り、しきりに声をかけながら捜しまくる。
というか、机の中とかロッカーの中とか。そんな所に舞が入れるかが疑問である。
「何処に行ったんですかー！？ 聞こえたら返事してください！ 舞ー。舞ー」
ぽんぽこたぬきさん。
ガタガタと容赦なくガサ入れされる教室の中で、香里は聞こえない筈のそんな声を耳にしたような気がした。
ちなみに、香里が教室の掃除ロッカーの裏に設置された盗聴機の排除に成功したのはその３ヶ月後の出来事。
―― ニ回裏 ――
それぞれ赦すべきは赦し、罰すべきは罰する。
太守
てな訳で。
決行日。
みつきに事情を話し、協力を依頼した香里と名雪は
その後、揃って黒服のいかつい人らに拉致られた。
「せめて、もう少しマシな歓迎はなかったんですか？」
そう香里が問いても、佐祐理は「あははー」と何処吹く風。
ついでに言うと、今日はどうやら佐祐理単体のようだ。
事情を聞くと、どうやら舞は朝から何処かに出かけてしまったらしい。
逃げたな、と香里は思った。
はちみつくまさん。と、また聞こえない筈の声を聞いたような気がした。
「なかなか面白い事になってるわね」
「そうですねー。久瀬さんも楽しそうです」
「うぅー。祐一ひどいよー」
テーブルの上に置かれたモニターを凝視しつつ、それぞれが端的なコメントを漏らす。
彼女らがいるのは、モニターに映っている部屋からそう離れていない所。というか、ぶっちゃけ同じカラオケの違う部屋だった。トイレに行けば、下手すると鉢合わせてしまいそうなほど近しい距離。まあ、それはそれで面白そうではあるが。
監視カメラと盗聴機を通したリアルタイム中継を楽しみながら、香里は少しだけ疑問に思っていたことを聞いてみる事にした。
「というか、倉田先輩はなんでこんなことしてるんです？」
「それはですねー。久瀬さんが最近、恋愛相談をしてきたんですよ」
佐祐理の話はこうだった。久瀬が恋愛相談をしてきた。で、それを親身になって聞いていたのだが、彼から出る情報は曖昧。
不審に思って盗聴機なんか仕掛けてみたら、聞こえてきたのは名雪と香里のあの話だったという。
「おかしいですよね。恋愛相談なのに合コンなんて。ですから、きっと久瀬さんは想いの人を諦めようとしていると思ったんです。だとしたら、佐祐理は邪魔するしかないじゃないですかー」
「何が『だとしたら』なんですか……」
「佐祐理も舞と親友になった時は頑張ったんです！ だから、久瀬さんも頑張らないといけないんです！」
えらく強引な話だった。というか、いつもこの人はこんなんなんだろうか……。
川澄先輩……強く生きて下さい……。
名雪が「ひどいよー」と画面に齧りつき、佐祐理が死ぬほど楽しそうな表情でイヤホンを耳にあてている横で、香里は友人選びの大切さを知った。
その言葉を聞いた時、名雪は嬉しさと恥ずかしさで頭が真っ白になった。
―――俺、やっぱ名雪じゃないとダメみたいだ。ドキドキしないんだよ。他の女と喋ってても。
祐一に仕掛けた盗聴機をカラオケのスピーカーに繋ぐ。祐一の盗聴機は今日の早朝に名雪が奇跡的に睡魔を克服して、彼の服に設置したものだ
飛び出した声は祐一と斉藤のものだった。トイレにいるらしい。シャーと水が流れる音に香里は顔を紅く染めた。
―――俺には名雪だけいてくれればいい。それがわかったんだ。まあ、今回は盛り上げ役に徹するさ。
きゃー。と、黄色い声が上がる。女三人集まれば姦しい。いや、この場合は叫んだのは二人で、もう一人は真っ赤にした顔でパクパク口を動かしたりしてるだけなのだが。
そして、ポツリと。「恥ずかしいよ……祐一……」
そんな名雪に釘を刺すように香里が言う。
「あのね、けど、浮気しようとした事には変わりないのよ。一応、ちゃんと怒りなさいよ」
「うん。わかってるよ、香里。でも、嬉しいよ……祐一」
ダメだこりゃ。
と、香里は思った。
しばらくすると、香里はゆっくりと立ち上がった。
不思議そうに見上げる名雪に香里は軽く手を挙げる。
「さてと、それじゃ行ってくるわね」
「本当に行くの？ 香里……」
「……行くしかないでしょ、もう」
「水瀬さん、香里さんじゃなくて佳澄さんですよー」
「う、うん。確かに別人みたいですけど……」
名雪が見たそれは、既にいつもの香里ではなかった。倉田佐祐理専属のスタイリストにより、既に別人と化している。
「あははー。よく似合ってますよー」
と、親指を立てる佐祐理を見て、香里ははぁと少し溜息が出た。
題して『変装作戦』。あまりにもそのまんますぎるタイトルが本格派志向の倉田お嬢様には不評を買ったが、わかりやすいのでそのまま採用になった。
概要は単純明快。いざという時に相沢祐一以下数名の愚行を止められる人員をこちらから用意してしまおうというのが大まかな内容。関連性のない人を用意した方がいいと香里は主張したが、「こっちの方が面白そう」という佐祐理を前にあっさり却下され、ついでに拉致られた時にしっかりメイクアップされた。
という訳で、今の香里は美坂香里ではなく、宮田佳澄なのである。
なんというか、なんでこんな事になったんだろう。
そんな事を思いながら、香里はゆっくりと祐一たちの待つ部屋へと向かった。
話は変わる。祐一たちの部屋から少し離れたところにある廊下。そこに久瀬は立っていた。
違和感を覚えたのはいつだったか。
佳澄の姿を見た時からだろうか。それとも、震える一美の様子からだろうか。それはわからない。
だが、こういった直感を久瀬は外した事がなかった。そして、その直感はＳＰの報告を聞いた時、確信へと変わった。
耳に当てた携帯電話をゆっくりと下ろす。家の者に調べさせたところ、相沢祐一から不信な電波が出ている事、そして彼らの部屋の監視カメラが通常のルートとは違うところで繋がっている事がわかった。
ルートの逆探知は容易ではなかった。複雑なルートを辿った上、巧妙に偽装されていた。だが、不可能ではない。そして結局、最終的に辿り着いた所は意外にも同じ建物にある部屋の一つだった。
その部屋の前に立った久瀬。波打つ心臓を必死で抑え、中の様子を探る。ギリギリまで高まった緊張感。冷や汗が頬を伝った。
そして、扉を開く。
「そこまでだ！」
「はえっ！？」
中にいたのは見知った人物。該当する容疑者の中でも最も可能性の高い人物だった。
倉田佐祐理。名家倉田の長女。その彼女が驚いた様子で久瀬を見上げていた。
「さて、理由を話して頂きましょうか」
「あ、あのー」
「惚けようとしても無駄です。既に証拠はこちらが握っています」
観念したように口篭もる佐祐理。しかし、彼女も一筋縄にはいかない。
「だいたい久瀬さんが悪いんですよ！」
居直った。あっさり。
そんな佐祐理の様子に面食らう久瀬。
そんな久瀬に構わず、佐祐理は彼を糾弾する。
「佐祐理は久瀬さんが助けて欲しいって言うから、相談に乗ったんですよー。なのに、久瀬さん、合コンなんて行ってるじゃないですか。これでは佐祐理の立場がありません。佐祐理だけではなく、倉田家への侮辱ですよ！」
さらに家の威光までちらつかせる。
かなり容赦ない佐祐理。
「好きな人がいるって言ってたじゃないですかー！ その気持ちは何処へ行ってしまったんです！ というか、誰なんですか！？ 久瀬さんの好きな人は。それを聞くまでは佐祐理は許しませんよ」
呆気に取られて聞き入っていた久瀬であったが。
コホンと一つ咳払いをした。
緊張が解ける。こんな彼女を目にしたのも初めてなら、彼女を前にこんなにも落ち着いている自分も初めてだった。
今なら言えそうな気がする。
深呼吸。一度、二度。そして、彼は決心した。
相沢祐一が作ったマニュアル。
その中にあった言葉を口にすることにした。
「僕が好きな人は、僕の目の前にいます」
そうとも、とにかく夢の話だからな。
マキューシオ
あれから、何か変わったと人は言うかもしれない。いや、何も変わっていないと言う人もいるだろう。
相沢は以前と同じように、水瀬さんとイチャイチャしている。本人たちは否定するだろうがあれはどう見てもイチャついてるとしか思えない。こちらとしてはちょっと目に毒だったりするんだけど、水瀬さんが幸せそうだからいいや。
北川も相変わらず、美坂さんに殴られ、蹴られ、他にも色々されていた。けど、それでも、たまに二人で笑い合っているところも見かける。あと、これはかなりびっくりしたんだけど、北川はどうやら受験先を美坂さんと同じ大学にしたらしい。進路相談の時に「美坂と同じ大学に行きます」と隣りの部屋に響くほどの声量で言い放ったのはもはや伝説だ。それから、二人で勉強している姿も時々だけど目にする。あの時は結局ああだったけど、案外上手くいってるのかもしれない。
久瀬は――前とは全然違うかもしれない。いや、前がどうだったかなんて知らないけど、この前倉田先輩と会った時、ぎこちなく笑い合っていただけだった。久瀬に聞いたら、「僕と彼女の関係が知られたら彼女が他校の謀略の前に晒されるかもしれない」とか訳わかんないこと言ってた。けどまあ、どうやら上手くいってるようだ。こっちもこっちでハッピーエンドなんだろう。
そして、僕。あの日以来、水瀬さんのことが好きだったのかわからない自分がいた。あの時の相沢の言葉に、ほっとしていた自分がいた。多分、僕は彼女が好きだったのだろう。けど、それ以上に相沢に向ける彼女の笑顔に、きっと僕は憧れていたんだろうと思う。だから、こうして彼女の笑顔を護ることができただけで、僕は満足していた。
なんてカッコよく言い訳してみるけど、本当は別に興味を惹かれただけかもしれない。ミイラ取りがミイラになる。結局、あの合コンを頑なに否定していた自分がこうしてあの子に惹かれている。滑稽であったが、何故か気分が良かった。
そして、僕は電話をかけた。何度もかけようとしたけど、いつも途中で止まってしまった僕の手が、何故か今はすんなりと動いた。この星が助けてくれたのかもしれないな。そう、僕は空を見上げながらなんとなく思った。
そう、これは僕のお話。最後の最後に、ほんの少しだけ語る僕の小さな恋物語。
着信音はまだ鳴らない。外はすっかり闇に包まれ、肌寒い空気が世界を満たした。星が煌き、優しい光が空に点々と舞う。
そんな星空の中で、斉藤はあの日のことを思い出していた。全てが終わった後のことを。彼女を送っていった時のことを―――。
あの日、全てが終わった後、店の前でバラけようとしていた中で斉藤は祐一に肩を組まれた。
そして瞳の方を見ながら、祐一は言った。「あの子、お前と一緒の方向みたいだな。送っていってやれよ」
その言葉に従うまま、斉藤は彼女を送ることにした。
その帰り道、彼は言った。「大変だったね……」
そして、彼女はこう言った。「そうですね。けど、それでも―――」
―――すごく楽しかったです。
そう言って微笑んだ。初めて見た彼女の微笑み。
夜空から舞い散る屑星が彼女を照らした。それを見上げた彼女は両手を広げた。そして、もう一度だけ笑った。
その姿を、斉藤は綺麗だと思った。世界中の何よりも、綺麗だと思った。
見惚れていた彼に彼女は不思議そうな顔をしていた。
着信音はまだ鳴らない。今、彼女はどの辺にいるのだろうか。
そう言えば、彼女と会って、何を話そうか。それを考えていなかったことに斉藤は気付いた。
慌てたようにポケットを探り、中から紙切れを取り出す。祐一が製作し、久瀬から譲り受けたマニュアル。
けど、少しだけ思い直して、彼は再びそれをポケットへと戻した。
別に何も喋れなくてもいい。というか、そっちの方が自分らしいし。
なんてことを思いながらも、彼はさっき電話で話したことを反芻する。そして、誘い出した理由を思い出し、顔を青くしてもう一度マニュアルに手を伸ばした。
というか、なんであんなこと言っちゃったんだ。あれじゃまるでこれから告白するみたいじゃないか―――。
着信メロディが響く。手を振っている彼女がそこにいた。鳴りっぱなしのメロディに合わせてステップを踏む。
流れたメロディは涼しげな風を呼び寄せ、ざわめきの中へと消えていく。
短かった夏が、もう終わろうとしていた。そして、ゆっくりと秋がやってくる。
新しい季節が、もう―――。
君の瞳にシャイニング延髄斬り――― 了
前のページ
−−−−−
結果のページ
戻る